2012年7月29日日曜日

ダークナイト ライジング

ダークナイト ライジング
The Dark Knight Rises
2012年 アメリカ/イギリス 164分


ハービー・デント法によって千人の犯罪者をぶち込んで秩序を取り戻したゴッサム・シティに不気味なマスクをかぶった男ベインが現われて不穏な画策を始めるのでバットマンが八年間の沈黙を破って活動を始めるが、バットマンはベインによってさっさと捕えられて竪穴の底にある脱出不能な刑務所に監禁され、すっかり準備をととのえたベインはゴッサム・シティの破壊にかかり、核兵器の恐怖をちらつかせながら脅しをかけてゴッサム・シティを孤立させると配下の兵士を使って町を戒厳令下に置き、持たざる者を扇動して持てる者から略奪をおこない、無法な裁判によってひとをさばき、そのようなことをしていると竪穴から脱出したバットマンが三千人の警官を味方につけて、言わば「反動」をおこない、乱戦のなかで再びベインに挑戦する。 
冒頭に登場する飛行機の「撃墜」シーンは造形の異様さで際立っているが、際立っているのはそこまでで、以降の場面には予告編ほどの迫力はない。
悪役ベインのキャラクターは状況の進行とともに萎縮し、最終的には事実上消滅する。消滅する代償として別のキャラクターが立ち上がるが、意外ならいいというものではないだろう。しかも唐突さを糊塗するために台詞が過剰になっている。過剰と言えば台詞が全体に過剰気味で、苦悩だの信条だのを登場人物がやたらと口にするが、聞いているうちにこちらはもうどうでもよくなってくる。なにやら勢い込んでいる様子は見えるものの、テロルによる支配という要素に対する十分な考察がうかがえない。バットマンに余計な困難を与えたせいで構成は明らかに散漫になり、仮にそこは置くとしても構想に対して構築性がともなわないという点で、これは『インセプション』によく似ている。
テロルの支配下におかれたゴッサム・シティの描写は全体に甘さが目立ち、このような言い方は好みではないが、突っ込みどころが満載である。野生状態におかれた民衆はこの映画に描かれているほどおとなしいはずがない。ベインというキャラクターにもっと集中して恐怖政治を出現させてほしかった、というのが正直な感想である。
さまざまな欠陥にもかかわらず、俳優はおおむねにおいてよい仕事をしていたと思う。特にアン・ハサウェイには驚かされたし、ジョセフ・ゴードン=レヴィットには好感を持った。 


Tetsuya Sato