2012年7月23日月曜日

ヒックとドラゴン

ヒックとドラゴン
How to Train Your Dragon
2010年 アメリカ 98分
監督:クリス・サンダース、ディーン・デュボア


相当な人数の ヴァイキング が暮らしている島があり、その島には有害生物のドラゴンがときどき大挙して押し寄せてきて家畜などを奪ったりするので、頑固な ヴァイキング は島を出るかわりにかれこれ数百年ものあいだ、ドラゴンと戦うことを自らの使命としてきたが、そのバイキングの族長ストイックの息子ヒッカップはいわゆる落ちこぼれで、父親の言葉を借りればスズメほどの集中力もなく、鍛冶屋の助手をしながら妙な発明品をこしらえて味方に損害を与えている。ところがそのヒッカップが自分で作った武器で謎のドラゴン、ナイト・フューリーを撃墜し、墜落現場にひとりおもむいて怪我をしたドラゴンと出会って結果として友情を育むことになり、ドラゴンが失った尾羽の一部を鍛冶屋で作った代用品でおぎなって二人三脚で空に舞い上がり、さらにドラゴンの習性についていろいろと学んでドラゴン退治の訓練では学んだことを実地に使って次々とドラゴンを倒すのでヒッカップはたいそうな人気を得るものの、間もなくヒッカップとドラゴンの関係があきらかになり、ドラゴンとの交流は許されることではなかったので、ヒッカップのドラゴンは捕えられ、ヒッカップは父親の叱責を浴び、父親は捕えたドラゴンに道案内をさせてドラゴンを壊滅させるべく船団を率いて出発する。
バランスの取れたシンプルなプロットに人物関係を要領よく埋め込み、ユーモアをほどよくまぶし、悪人はひとりも登場しない。ドラゴンのキャラクターはネコそのまんまで、広げた掌にそっと額を押しつけてくるところとか、いきなり立ち上がって向こうへとっとこ立ち去るところとか、嫌いな食べ物を見つけて鼻を鳴らすところとか、首筋をなでられて事実上のどをごろごろ言わせるようなところとか、なんとも言いようのないほどの愛らしい造形がほどこされていて、これはかなりずるいと思った。『リロ&スティッチ』と同様、異質な存在を近しいものへとたくみに変えて見せてくれるのである。そしてこれが空へ舞い上がるとすばらしく飛行に適した精悍なフォルムになって実に美しく空を飛び、映画史上もっとも美しいドラゴンの飛行シーンを堪能できる。
飛行シーンに限ったことではないが、ほぼ全編にわたって陰影に富んだライティングがほどこされ、絵が非常に美しい(ビジュアルコンサルタントにロジャー・ディーキンスを起用している)。美術面もよく考慮され、冒頭に現われる島の景観、バイキングとロングシップの船団なども見ごたえがあり、見渡す限りが素材への愛情に満たされている。傑作である。2Dでも十分にすばらしいが、3D版は視覚面で一層のデザインが加わっていて、相当に迫力がある。




Tetsuya Sato