2012年7月13日金曜日

警視の告白

警視の告白
Confessione di un commissario di polizia al procuratore della repubblica
1971年 イタリア 105分
監督:ダミアーノ・ダミアーニ


パレルモ市庁と地元財界、マフィアが癒着している。善良な警視は法の適用における不正に絶望し、遂に超越的な正義の行使を試みる。警視の行動に異常を感知した若き検事補はその行動を追求するが、やがて現実の腐敗を目の当たりにして戦いを誓う、というような内容なのである。製作時期が時期だけに少々赤いが、イタリアの南北格差やマフィアの政界進出が大問題になっていた時期でもあるので、底辺労働者が赤くなるのは当然のことであろう。
荒っぽいカメラワークにリズ・オルトラーニの杜撰なスコアが重なったドキュメンタリー調の演出は、相当に力が入っていてまがまがしい迫力を生み出している。マーチン・バルサム、フランコ・ネロも熱演していて、けっこうな見応えなのであった。




ところでその昔、シチリアの首都パレルモから内陸のモンレアーレまで車で移動したことがあって、途中に団地のごとき建物がずらりと並んでいるのを見て旧市街との対比にちょっと驚いた。地元の人々には失礼な話だが、古色蒼然としたマフィアの里というイメージを抱えていたわたしはパレルモにそうした近代的な風景があるとは予想していなかったのである。映画はその近代的な一帯の開発に関わるマフィアがらみの汚職の話で、「壁から指が生えている」とか「蛇口をひねると血が出る」などという台詞が登場する。開発に反対した地権者や組合幹部などをコンクリートで固めてビルの土台に埋めていたのである。
パレルモ滞在中に一度だけ、マフィアのように見える連中を目撃した。夕食を食べようと「ヴィラ・チェザーレ」という名のレストランに入っていったら、まず店長とおぼしき男がハリウッド映画の悪役系俳優ポール・シナー(『スカーフェイス』の麻薬カルテルのボス)そっくりのハンサム中年で、注文した料理を運んできた男はこれも悪役系俳優ロバート・ダヴィ(007『消されたライセンス』の悪役)のそっくりさん、しかもご丁寧に頬に刀傷がある。どっちも黒いスーツを実に見事に着こなしていて恐ろしく愛想のいい悪役笑いを浮かべていて、ロバート・ダヴィの方は料理をいちいちワゴンで運んできてわざわざ目の前で取り分けてくれる。パスタの果てまでそうするものだから、こちらとしては「冷める、やめてくれ」と言いたいところだったが、なんだか嬉しそうにやっていたので口には出せなかった。最後にフルーツを注文したら、これもやはりワゴンで運んできて、口元にやおら壮絶な笑みを浮かべるとナイフを取って切り始めた。察するにナイフ使いなのであろう。とどめにやってきたのが絵に描いたようなマフィアのドンとその一家で、太った親分とごてごてした女房、貧血気味なのか痩せて気力のなさそうな息子と健康そうに太ってはいるけれどやはり無気力そうな娘という四人組が店に入ってくると、店長のポール・シナーが両腕を広げてこれを迎えて親父殿と抱擁を交わしたのである。キッチュに汚染されたこちらの頭は老いたドンと駄目な二代目、隙間に潜り込んで乗っ取りを企む悪い番頭という構図を思い浮かべて感心しながら眺めていたが、あれは本物のマフィアだったのであろうか、それとも観光客用の演出だったのであろうか。オペラ劇場(『ゴッドファーザー PART III』の撮影で使われたマッシモ劇場)の裏手、海岸寄りにあった店だと記憶している。まだあるのかどうかは知らないが、行くことはあまりお勧めしない。料理がとにかくひどかったのである。ちなみにオペラ劇場をはさんだ向かい側には「パパガッロ」というレストランがあって、こちらは涙が出るほどすばらしい料理を出してくれる。

Tetsuya Sato