2012年6月1日金曜日

ロング・エンゲージメント

ロング・エンゲージメント
Un Long Dimanche De Fiancailles
2004年 フランス 134分
監督:ジャン=ピエール・ジュネ

1917年1月のソンム。故意の負傷で死刑の判決を受けた五人の兵士がフランス、ドイツ両軍の塹壕のあいだの中間地帯に放り出され(ペタン元帥の方針だという)、死亡したものと見なされる。戦後の1920年、ブルターニュで伯父夫婦と暮らす二十歳の娘マチルドは五人の兵士のなかに恋人マネクがいたことを知り、マネクの生存を信じて当時の状況を調べ始める。
ナレーションを多用しながら細かなスケッチを積み重ねていく手法は『アメリ』を思い出させるが、ここでその対象になっているのは近所の滑稽な日常ではなくて、もっぱら歴史的な残像である。その絵巻ぶりはなかなかのもので、第一次大戦の西部戦線、戦後のパリの街頭や駅、中央市場といった光景がそれらしく再現されている(特に中央市場には感動した。しかもそこではジョディー・フォスターが野菜を売っていたりするのだ)。 多彩な登場人物は手際よく素描され、生活描写には実感があり、演出は(ときおりギミックに走るものの)きわめて忍耐強い。手間のかかった立派な映画である。ただ、『アメリ』で多少慣れておかないと、淡々と流れるナレーションの背後からプロットの継ぎ目の弱さが見えるかもしれない。実は見ているうちにエレム・クリモフの『ロマノフ王朝の最期』を思い出したが、手法としての歴史的なコラージュという意味でならば、目的がはっきりしていただけ、あちらのほうが腰が座っているような気がする。





Tetsuya Sato