2012年5月16日水曜日

クヒオ大佐

クヒオ大佐
2009年 日本 112分
監督:吉田大八

第一部「血と砂と金」で湾岸戦争が勃発し、日本人のほとんどがおそらくはあまり思い出したくはないであろう例の90億ドルが話題になり、外務省某所で怪しい会合がおこなわれていたかと思うと、いきなり第二部「クヒオ大佐」に話がうつり、合衆国海軍の制服に身を包んだ自称クヒオ大佐が弁当屋の女社長、こども科学館の学芸員、銀座のバーのホステスなどに粉をかけ、この安っぽくてずさんな偽装がなぜばれないのかとこちらが不思議に思っていると、もちろん、ばれるときにはすぐにばれてしまうので、脅されたり、笑い者にされたり、追いかけられたりして、結果としては本人がけっこう恐ろしい思いをすることになる。
堺雅人の裏が見えるようで見えない演技がまず面白いし、弁当屋の女社長の弟、刑事といった傍目に面倒な要素などもたくみに処理されている。どちらかと言えば淡々とした演出ではあるが、それぞれの場面の描写に厚みがあり、撮影も美しく、登場人物に無駄がなく、俳優がみなよい仕事をしている、ということで、見ごたえのある作品に仕上がっている。冒頭の90億ドルの問題も最後になってしっかりと、しかもかなりダイナミックに回収されているところには感心した。これはよい映画である。 




Tetsuya Sato