2012年5月4日金曜日

メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬

メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬
The Three Burials of Melquiades Estrada
2005年 アメリカ・フランス 122分
監督:トミー・リー・ジョーンズ


メキシコに近いテキサスの小さな町でメキシコ人の牧童メルキアデス・エストラーダが射殺される。初老の牧童でメルキアデス・エストラーダの親友であったピート・パーキンズは過ちによってメルキアデス・エストラーダを射殺した国境警備隊員マイク・ノートンをかどわかし、メルキアデス・エストラーダと生前にかわした約束にしたがって遺体を故郷に埋葬するためにマイク・ノートンを連れて国境を越える。最初の埋葬は射殺したマイク・ノートンによって、二度目の埋葬は解剖後にテキサスの墓地で、三度目の埋葬はピート・パーキンスがメキシコで見つけ出すメルキアデス・エストラーダの故郷でおこなわれる。
トミー・リー・ジョーンズの初監督作品。淡々としているものの脚本の品位が高く、演出と映像にはこだわりが見え、とにかくていねいに作られた映画であることに感心した。トミー・リー・ジョーンズは自らの法を頼みとする老いたアメリカ人を寡黙に演じ、対するバリー・ペッパーはどこか動物じみた国境警備隊員を見事に演じて魅力的である。周辺に素描される登場人物を演じた出演者たちもまた魅力的で、いずれの表情も忘れがたい。前半のカットバックを多用した特異な構成を大胆に持ち込み、後半のメキシコへの旅では遺体を含む同行三名のロード・ムービーとなっていく。全編にわたって風景がすばらしく美しい。結末に至って変容するピート・パーキンスの心理がやや唐突に感じられたが、同時に進行するマイク・ノートンの変容と対比するならば、作り手はこの老いたアメリカ人のなかに重大な疲労感を見つけていることになるのかもしれない。 





Tetsuya Sato