2012年2月2日木曜日

戦ふ兵隊

戦ふ兵隊(東宝 1939, 66min.)
監督:亀井文夫

昭和14年に陸軍省の後援で製作された国策映画で、武漢作戦を中心にしたドキュメンタリー。陸軍省の意図は言うまでもなく戦意高揚にあった筈だが、出来上がった映画に登場するのは疲れた兵隊ばかりであった。それはそれでリアルな姿であった筈だが、あまりの厭戦ムードに上映禁止、亀井監督も治安維持法によって間もなく逮捕、投獄されている。実際、見てみると特高でなくとも逮捕、投獄したくなるほど心理的なダメージは大きい。なにもかもが恐ろしく貧乏くさくて虚しいのである。
全編中の白眉は武漢作戦の中盤、中国軍との遭遇戦ではないだろうか。カメラは戦場ではなくて中隊本部に据えっぱなしにされていて、若い中隊長が配下の兵士に次々と指示を与える様子が淡々と記録されている。これはもう単純に珍しい。そして中隊長の話しぶりが命令口調というよりも日常的な会話に近くて、「じゃあ、この丘のね」という感じでなのである。その丘の上では純朴な目をした日本兵が機関銃を撃っていて、軽いスタッカートが斜面に向かって散っていくと、カメラはそのままパンしていって鳥がさえずる大地の姿を我々の前に映し出すのであった。




Tetsuya Sato