2012年2月29日水曜日

ウイング・コマンダー

ウイング・コマンダー(1999)
Wing Commander
監督:クリス・ロバーツ


同名のゲームの映画化であり、監督はゲーム作者当人らしい。ただしゲームの方をやったことはない。26世紀が舞台で、人類は宇宙に進出していて例によってエイリアンと戦争をやっている。そして地球へのワープ・ポイントをエイリアンに悟られたことから、ワープ・ポイントの出口を地球艦隊が、入口をペガサス星域にただ一隻残された戦闘艦が押さえるという作戦に出る。で、話の大半は押し寄せてくるエイリアンの艦隊に対して入口の一隻とその艦載機が立ち向かうという部分が占めていて、その戦闘シーンがなかなかによろしいのである。戦闘機対戦闘機の場面ではお互いに機銃で撃ちあうし、宇宙空間にいるのになんと弾道が落ちていく。母艦は母艦で魚雷を実にいい音で発射するし、いよいよ決戦という時にはミサイルの片舷斉射(ポイント・ブランクだ)でやっつける(しかも内側で装填する場面までやってくれる)。美術も頑張っていて、使い込んだ感じの戦闘機や格納庫の場面は見応えがある。残念ながらストーリーはかなり空疎なのだが、視覚的には完全に趣味の世界にいっていて、個人的にはかなり気に入った。 



Tetsuya Sato

2012年2月28日火曜日

女子高生ロボット戦争

女子高生ロボット戦争(2001)
Xtracurricular
監督:ティム・T・カニンガム


どうやらテキサス方面とおぼしきど田舎の高校にアリーとブリトニーという女の子がいて、アリーがスポーツ万能、ブリトニーはお金持ちの家の天才少女で、二人は親友同士なのである。そこへロサンゼルス方面から一人の少年が(本当に)花を背負って転校してきて、これがこちらにはにやけた若造にしか見えないが、女子高生たちにはハンサムでおしゃれということになるようで、女子高生たちは瞬時にこのクリスに夢中になり、ブリトニーもまた夢中になる。そこでアリーが恋の掛け橋になろうとしたところ、クリスはアリーに粉をかけ、それを見て恨んだブリトニーはアリーに対して宣戦を布告、天才ぶりを悪用してナノテクロボットや無線操縦の戦闘ロボットまで繰り出してくる。
どちらかというと女の子同士の友情の話で、たとえば『プロジェクトA子』(1986年)のようなアホウなエスカレーションはないが、効果線などがときどき入るところを見ると、どこかのアニメの影響も多少は入っているのかもしれない。後半失速するものの、全体にむらのないていねいな撮り方は好感が持てる。二人の両親や同級生、先生などもほどよくキャラクターが立っていて、コメディとしての水準をクリアしている。



Tetsuya Sato

2012年2月27日月曜日

モンスターアイランド

モンスターアイランド(2004)
Monster Island
監督:ジャック・ペレス


バミューダに浮かぶ絶海の孤島でMTV主催のライブがおこなわれ、招待された高校生たちが騒いでいると、そこへ半端じゃない大きさの女王アリが出現して歌手のカーメン・エレクトラをさらってしまう。するとプロデューサーは尻をまくるので高校生のグループが救出に行くことになり、島の中心を目指して進んでいくと途中では巨大カマキリに遭遇し、口から釣り針を垂らした半漁人に遭遇し、島の秘密を握るハリーハウゼン博士(なつかしや、アダム・ウェスト)に遭遇し、苦労の末に『放射能X』なアリの巣に潜入すると、そこではカーメン・エレクトラがライブを強要されているのである。
キャラクターの色分けも定石通りで、学園コメディの変形として十分に水準はクリアしている。演出は軽快で、手慣れており、眺めているのに苦労はない。特撮は低予算を逆手にとった確信犯的な安っぽさで、舞台になる島にしてからが遠景で使われているミニチュアは小学生の夏休みの工作みたいなしろものである。それなりに気が利いていて、なかなかに楽しくて、これは意外な拾い物。 
モンスターアイランド [DVD]

Tetsuya Sato

2012年2月26日日曜日

スターレック

スターレック 皇帝の侵略(2005)
Star Wreck: In the Pirkinning
監督:ティモ・ヴォレンソラ


フィンランド製のビデオオリジナル作品で、ほぼ全編『スタートレック』(どちらか言うと『ネクスト・ジェネレーション』)のパロディになっている。で、ピッカード、というよりは「カーク艦長」みたいなやつと「クリンゴン」みたいなやつと「データ」みたいなやつが、どうやら「ボーグ」みたいなものとの戦っているうちに現代の地球へ現われ、場末でうらぶれた生活をしながら自分たちの世界へ帰ろうとしている。予定どおりならば、とがった耳をした「バルカン人」みたいなやつが人類とコンタクトして地球に繁栄をもたらしているはずが、その「バルカン人」みたいなやつは飲兵衛な上にどこかのロック歌手と意気投合して自分の仕事を投げ出したため、帰還の計画も思うようには進まない。三人組は「バルカン人」みたいなやつが自分の宇宙船をロシア人に売り飛ばしたことを知るとロシアを訪れ、まず宇宙船を確保すると大統領と契約を交わしてロシア人を訓練し、未来のテクノロジーを利用してまるっきり『スタートレック』なロシア製宇宙艦隊を作り上げ、その戦闘能力を悪用して地球を征服、「カーク艦長」みたいなやつは皇帝を名乗ってロシアの大統領を始末すると全地球の支配者になるが、人望がまったく得られないので飢えた人民の反乱にあい、地球を嫌うと艦隊を率いて宇宙へ飛び出す。そして宇宙で見つけた得体の知れない穴をくぐって反対側へ到着すると、そこが実は並行世界で、いきなり現われたこの侵略者に対し、地球の艦隊が反撃してくる。大戦闘の末に皇帝の艦隊が勝利を収め、敵の巨大な宇宙ステーション(格納庫の壁にはマクドナルドの看板の隣にちゃんとノキアの看板が)に乗り込んでいって、みんなで呑めや歌えの大騒ぎをはじめ、酔いつぶれたり、トイレでげろを吐いたりしていると、そこへ地球艦隊の援軍がやってくるので、また大戦闘になり、ドジを踏んだり、ごちゃごちゃと策を弄したりしているうちにどうにか勝利するものの、皇帝の艦隊も事実上、全滅、船は墜落し、気がついてみると、また最初の三人だけになって、氷原でわびしく焚き火にあたっている。
登場人物のほとんどがだらしのないのんだくれで、いちおう主人公の「カーク艦長」みたいなやつは虚勢を張ることとずるをすること、あと下半身の欲望をどうにかすることしか考えていない。思いつきはまったく悪くないものの、演出も出演者の演技も素人の域を出ておらず、そこへフィンランド的な、と言うべきなのか、そう言ったら失礼、と考えるべきなのか、重苦しい野暮ったさが追い討ちをかけるので、つまり、とても素人臭くてとても野暮ったい代物になっている。そうした素人臭さや野暮ったさにつきあうのは少々つらいものの、宇宙空間の戦闘場面など、特殊効果は意外なほどの仕上がりで、敵味方双方数十隻が入り乱れて戦い、光子魚雷を乱射し、派手に爆発する。下手は下手だが、とにかくやる気は立派なものだと思うのである。 




で、この映画の監督ティモ・ヴォレンソラの新作が『Iron Sky』。現時点では日本公開は不明。






Tetsuya Sato

2012年2月25日土曜日

ゾーダ(ゾウだ?)

ゾーダ(2002)
Treck
監督:チャンチャイ・パンタシ


タイの映画である。全身に毛の生えた謎の象が目撃された、ということで、「アジア象を守る会」の会長はその象の実在を確かめるために会員を引き連れてジャングルを目指す。会長のほかはタイ人の若者5人(うち女性が2人)、黒人1人(役に立たない)、外国からやってきた白人のカップル1組(役に立たない)、マルチーズ1匹(もちろん役に立たない)という構成である。ところがジャングルの入り口にある村ではガイドにガイドを断られ、仕方なく自力で進んでいくと地面がいきなり口を開いてムカデの大群が出現し、1人が生きたままで食われてしまう。探検の指揮を取る会長もまた重傷を負い、よほどの重傷なのか、若者の1人になんとしても使命を果たせと言い残して自分はいきなりピストルで頭を撃って死んでしまう。考えは足らないけれど使命感は強い人だったのであろう。そこで同じように考えの足らない若者たちが遺志を継ごうと決意していると、一度は協力を断ったガイドがどこからともなく現われて、今度はガイドをしようと申し出る。ところがこのガイドは間もなくサソリの大群に生きたまま食べられてしまい、ガイドを失った探検隊のメンバーは独力でジャングルからの脱出をはかるが、そのあとも巨大なクモ、巨大なヘビ、凶暴なハエだかなんだかの群れなどと遭遇し、そのことごとくが彼らを生きたままで食べてしまおうとするのでたいそうな苦労をするのであった。ろくな装備も持たず、無線機もGPSもなし、服装も靴も普段のままで、そしてほぼ全員が健忘症という有様では仕方がなかろう、と思うのである。ただ、何がなんでも見せ場を作ろうという気力は認めなければならないだろう。水中から現われる大ヘビのCGなどは頑張っている。
ZODA ゾーダ [DVD]

Tetsuya Sato

2012年2月24日金曜日

バーサーカー

バーサーカー(2004)
Skinned Deep
監督・脚本:ガブリエル・バータロス


フレッド・セイバーヘーゲンとはまったく関係がない。
山中に巣くう怪しい一家が通りがかる車を襲ってひとを殺している、という素人映画である。出演者はたぶん素人ばかりだし、音声はアフレコ、撮影もひどいし録音もひどい。ただ特殊メイクだけは少しお金がかかっている。それと山中の一家の造形というのが妙に凝っていて、一人は人体に金属部品を埋め込んでいるし、一人はむき出しの巨大な脳味噌をぼろで隠して暮らしているし、一人は小人で皿を投げて暴れるのである。この連中にコロラドからやってきた年寄りばかりの暴走族が喧嘩を挑んだりするのである。そしてエンディング・タイトルに延々と流れるのは生き残った少女の悲鳴なのである。それだけではない。割れた頭からはアルファベットの積み木が転がり出てくるわ、それが単語を作って愛を語るわ、隠れ家の地下には頭部のないマッチョが股間にダイナマイトをくくり付けてマッチョなポーズを取っていて、その背後の壁には創造者という文字があったりするわ、けったいはけったいだが支離滅裂で、何を考えているのか、さっぱりわからないのであった。
バーサーカー [DVD]

Tetsuya Sato

2012年2月23日木曜日

インナーウォーズ

インナーウォーズ(2002)
監督:クリスチャン・マッキンタイア

おサルのような連中がミュンヘンに集まって生意気にも科学サミットを開いていると、そこへおサルのようなテロリストどもが現われて会場を占拠する。このおサルようなテロリストは核爆弾をどこかにしかけていて要求を入れなければ爆発させると脅迫するが、おサルのような連中ばかりの警備会社になだれ込まれて銃撃戦となり、リーダーを残して全滅する。爆発までに残された時間はわずかしかないし、爆弾の起爆装置はミクロサイズでテロリストのリーダーの体内に隠されていて、外側からは探せない。そうするとサル知恵の恐ろしさで、だったら内側から探せばいいという話になり、いきなり巨大な潜水艦(小型潜水艇4隻を搭載し、パルスレーザーガンで武装している)をミクロ化し、おサルのような連中を乗っけてテロリストの体内に送り込む。するとなにしろおサルのような連中なので、わざわざ心臓を目指して進んでいく。血流にもまれて事故を起こせば全滅することは必至であったが、意外なことに心臓の中が静かなのである。「たいへんだ、テロリストの心臓が止まっている」、そこで外でモニターしている連中にも知らせてやると、「なんだって、たいへんだ、アドレナリンを注射してみよう」。
ほぼ全編この有様で、何も考えていないし見てもいない連中が人体内部でレーザー砲を乱射して白血球と戦う様は壮絶であった。こんな映画をいったいどうやって作ったのかも不思議だが、それ以上に不思議なのは、このおサルのような連中をいったいどこから集めてきたのかということであろう。そのおサルの中にランス・ヘンリクセンが混じっているとなれば、なおさらである。
インナーウォーズ [DVD]

Tetsuya Sato

2012年2月22日水曜日

アース・トゥルーパーズ

アース・トゥルーパーズ 地球防衛軍vs巨大蟻軍団(2003)
GiAnts
監督:デヴィッド・ヒューイ(カリボウ・セト名義)


アリ研究の権威ケイン教授がコロラドにある企業に招聘されて出かけていくと、その企業の施設では安っぽいCGの巨大な檻に安っぽいCGの巨大なアリが閉じ込められている。教授はこのアリの商業利用について助言を求められるが、ろくな結果を生まないから、と言って断ると、いきなりエーテルをかがされ服を脱がされ縛られてしまう。しかし教授は知人の助けでこの施設(と言っても正味でガレージくらいしかない)から脱出し、知人とともに巨大アリがうろつく森を抜けて逃げていくと、企業の経営者とおぼしき人物が子分を連れて現われて、ここからは誰も逃げ出せないとか、とにかくそういう種類のことを言い始める。それでもがんばって巨大アリがうろつく森をさらに逃げていくと企業の経営者とおぼしき人物が子分を連れてまた追ってきて、そのあいだに外界では巨大アリが町に現われ、軍はケイン教授の娘の交通レポーター、ケイン教授の教え子の害虫駆除業者などに応援を求め、説明したくないような紆余曲折の末、ケイン教授は外界に復帰、地下鉄の線路に現われた巨大アリには地下鉄の運転手がカミカゼ攻撃をしかけ(ばんざーいと叫んでいた)、ケイン教授とSWATは巨大アリと交戦し、ケイン教授の娘と害虫駆除業者は高周波の発生装置で巨大アリをやっつける。これによって人類は窮地を脱したかと思えたが、実はすでに巨大な女王アリが活動を開始しており、ケイン教授と娘は軍のヘリコプターを奪ってこれを追撃、形はアパッチなのになんであんたら横に並んで座ってるの?、という疑問は最後まで解決されないまま、あれやこれややっているうちに女王アリは自由の女神の頭のところのとげとげに刺さって絶命し、みんなで万歳三唱していると、そこへ巨大テントウムシが出現するのである。SWATが全員ジャンプスーツを着用してコンバットブーツを履いているあたりからすると『キングスパイダー』よりだいぶ大作だが、創意の点ではあちらのほうが上であろう。
アース・トゥルーパーズ 地球防衛軍vs巨大蟻軍団 [DVD]

Tetsuya Sato

2012年2月21日火曜日

ヘモグロビン

ヘモグロビン(1997)
Bleeders
監督:ピーター・スヴァテク
脚本:ダン・オバノン


16世紀、近親結婚の禁令を嫌ってオランダの貴族がアメリカの小さな島に移住する。一族はその後も近親交配を繰り返し、その子孫は20世紀に入ってから死滅したと思われていたが、実は、ということで、ひどい邦題がついているものの、なかなかによくできた屍食鬼の話である。どことなく寂しい気配のその島では墓地の埋め替えがおこなわれており、棺桶が次々と掘り出されている。食料を奪われた地下の住人たちは次第に地上に姿を現わすようになり、女や子供が姿を消す。折しも島には嵐が襲いかかろうとし、しかも男たちは漁に出ていた。
「いかにも」の話を「いかにも」の場所を舞台に「いかにも」の場面でつなぎ、ちょっとしんみりとしたよいホラーに仕上がっている。 




ヘモグロビン【字幕版】 [VHS]

Tetsuya Sato

2012年2月20日月曜日

スターブレード

スターブレード(2008)
Battle Planet
監督:グレッグ・アロノウィッツ


地球がエイリアンの攻撃を受け、人類が別のエイリアンと共同で悪いエイリアンと戦っていたころ、素人同然にしか見えないものの抜きん出た英雄であると評価され、本人もまたそう思い込んでいるジョーダン・ストライダー大尉は妙なスーツを着せられて未知の惑星に単独任務で送り込まれるが、このスーツというのがたいそうなしろもので、大尉が休もうとすると休む必要はないと言い、大尉が疲れたと言うと疲れているはずがないと言い、大尉があくまでも休むと言い張ると勝手にアドレナリンを注入し、大尉が近くに敵がいると気がつけば、自分にはまったく見えないと言い、目の前に敵が現れて大尉が一生懸命戦っていると、大尉のバイザーをセンサーのアウトプットでふさいで前を見えなくするのである。で、任務というのは真っ赤な嘘で、軍は大尉に着せたスーツからデータを取って戦争に役立てようと考えていて、そんなこと隠すほどのことでもあるまいに、とこちらが考えていると、どうやらそういうことは全然ないようで、秘密に気づいた大尉を片付けるために後から後から部隊が送られてくる。はっきり言ってコメディにしかならないような話だが、これで戦争の悲劇を描いていたりするからおそろしい。かなりの低予算ではあるものの、出演者はいちおうまとも、美術も寒いなかでそれなりに頑張っていて、ディテールに対するこだわりも見える。もちろん、だからと言って面白いわけではない。 
スターブレード [DVD]

Tetsuya Sato

2012年2月19日日曜日

アイス・コング

アイス・コング(2006)
The Abominable
監督:パトリック・ドナヒュー


動物保護運動の活動家をしている女性アリーが邪悪な密猟者ジャコを追い詰めていた頃、アリーの父親の動物写真家は北極圏で体長18メートルの未知動物を撮影するために船をチャーターしていたが、その船はすでに密猟者ジャコによって仕切られていて、抵抗した動物写真家は殺害され、そこへ飛び込んできた娘アリーは船に乗せられて北極へ連れ去られる。北極へ到着するとジャコとその一味は謎の生物の探索に取り掛かり、アリーもまたその探索行に参加するが、なだれに遭遇してひとりを失い、野営地に戻るとそこへ巨大な雪男が出現する。ジャコは雪男を麻酔銃で仕留めて船に運び、船は雪男をサンフランシスコへ運び、そこで目覚めた雪男が暴れ始めて船倉を破り、町に上陸するので軍隊が出動する、というような話を一度も船に乗らず、一度も寒いところへ行かず、ほとんどセットも組まず、適当な観光写真かなにかをリアプロジェクション・スクリーンに大写しにして、それで船の上だったり北極だったり、あるいはサンフランシスコだったり、ということにして、役者がその前で学芸会以下の演技をする、しかも背景のスクリーンがよほど小さかったのか、カメラは登場人物をほぼ常にバストショット以上で捉えてすえっぱなし、という趣向の映画である。もう一歩推し進めていれば芸術映画になっていたかもしれない。当然ながら巨大雪男もスクリーンを背に肩をすくめているだけで、軍隊の出動シーンやパニックシーン、ヘリコプターの飛行シーンなどはそのへんのストックフィルムの使いまわし。これに比べると『北京原人の逆襲』などは百億倍くらい大作に見えてくる。
アイス・コング [DVD]

Tetsuya Sato

2012年2月18日土曜日

尻怪獣アスラ

尻怪獣アスラ(2004)
Rectuma
製作・監督・脚本:マーク・ピロ


ロサンゼルスの郵便局で働いているウォルドー・ウィリアムズは妻ヴァルヴィータとともに休暇でメキシコへ出かけ、海岸で甲羅干しをしているあいだにカエルによってレイプされる。臀部に激しい痛みを感じたウォルドー・ウィリアムズは帰国後に肛門科の医者を訪ね、死期が近いと宣告されて、謎の日本人医師ワンサムサキの治療を受けることになるが、肛門に核収縮棒を挿入された結果、臀部が緑色の光を放ち、しかも治療後に浣腸を怠った結果、ウォルドー・ウィリアムズの尻は凶暴化してウォルドー・ウィリアムズのからだを離れ、夜ごとに殺人を繰り返す。そしてついに巨大化して暴れだすので、日本から口パクのあわない怪獣退治の専門家が呼び寄せられ、なんだか恥ずかしい作戦が実行に移される。
アホウである。製作会社名"Pirromount Pictures"がすでにアホウである。続いて"A Mark Pirro Film"と表示されるべきところが"A Mark Pirro Pizza"となっている。低予算である。出演者は総勢二十人くらい、特撮はちゃちで、凶暴化した「尻」のメカニカルなどは半日で作ったような代物だし、パニックシーンなどはどこかのニュースフィルムの使い回し、出てくる尻(本物のほう)は不快なだけ、予想できることだがネタは基本的にお下劣である。ただ、それなりに頭を使って作ったような痕跡があり、そのせいでかなり救われている。登場人物の大半はどうやら異常を抱えているし、あきらかに『モスラ』のパロディーとおぼしき日系女性の二人組がしつこくしつこく狂言回しに登場して歌を歌うし、あくまでもしつこく歌う、朝までだって歌えると観客に向かって挑戦する。どうせ数人で自分の家の近所で撮ったのに違いないのに、エンディング・クレジットではロサンゼルス・クルーのほかにニューヨーク・クルー、サンフランシスコ・クルーまでいたとうそぶいている。殺人事件の捜査に乗り出してくる女性刑事はレクター博士みたいな凶悪犯に目の前でハムスターの踊り食いをされたせいでPTSDに陥っていて、その以来なぜか自分をジョディー・フォスターまたはクラリス・M・スターリングであると思い込んでいて、これがまた姿からしぐさまで、 『羊たちの沈黙』のジョディー・フォスターに微妙に似ていたりする。最後になって特攻隊員がどうしても必要になると、どこかのテロリスト・キャンプに出かけていって、アメリカに入国できないと悩んでいるイスラム系自爆テロリスト(あきらかにビンラディン)をスカウトしてくるし、それ以降の描写はたぶんに宗教的な問題をはらんでくるので気の小さいわたしにはとてもではないが正視できない(しかも、その前にはカトリックにも泥をかけているし)。


Tetsuya Sato

2012年2月17日金曜日

北京原人の逆襲

北京原人の逆襲(1977)
Mighty Peking Man (Xing xing wang)
監督:ホー・メンファ


ヒマラヤの奥地で大地が割れてそこから体長15メートルの北京原人が出現し、現地人の平和な村を蹂躙してから足跡を残して姿を消す、という15年前の新聞記事を図書館で見つけた興行師が北京原人を捕まえて見世物にすれば大もうけができると考え、弟に恋人を寝取られて失意のどん底にある若い探検家チェン・チェンフォンとともに探検隊を仕立ててヒマラヤの奥地とおぼしき場所へ出かけていく。途中、象の群れの襲撃にあい、虎の襲撃にあって人足が足を食われ、探検隊の半数が絶壁から転落して絶命するに及んで興行師はチェンひとりを置き去りにして残った人足とともに文明世界へ復帰するが、一方、チェンはついに北京原人に遭遇し、あわやというところで木陰から現われた金髪の裸女ア・ウェイに救われる。ア・ウェイは幼い頃、飛行機事故で山に落ち、両親を失って一人でいるところを北京原人に救われ、いままで育てられたのであった。チェンとア・ウェイはともに時間をすごすうちに恋に落ち、ア・ウェイはチェンにそそのかされて北京原人をジャングルから連れ出すことに協力する。ということで北京原人はインドから貨物船に積み込まれ、嵐をついて香港まで運ばれてスタジアムで公開されるが、同じ頃、チェンの前には以前の恋人が現われて関係の修復を求め、その様子を影から見たア・ウェイは悲しみを抱えてスタジアムに走り、悪い興行師はア・ウェイに酒を飲ませて暴行を加えようと押し倒す。ところがその様子を見て北京原人が暴れ始めて香港は大混乱になり、警察が出動し、軍隊が出動し、北京原人がビルの屋上へ逃げていくと、なにも『キングコング』だけにあやかる必要はないとばかりに屋上の貯水槽を吹っ飛ばす。 もりだくさん、という意味では、立派な映画だと思う。



北京原人の逆襲 [DVD]
Tetsuya Sato

2012年2月16日木曜日

パーフェクト・ゲッタウェイ

パーフェクト・ゲッタウェイ(2009)
A Perfect Getaway
監督:デヴィッド・トゥーヒー


カップルがハワイを訪れ、ホノルルからカウアイに渡ってトレッキングコースへ入っていくと、同じくトレッキング中の旅行者からホノルルで新婚のカップルが殺害されたという知らせを聞き、犯人がカップルだったという話を聞くと途中で出会ったカップルが殺人犯のように見えてきて、どうにも怪しいと疑いながらそれでもビーチへ向かって進んでいくとやはり恐ろしいことになってくる。カウアイの風景が美しい。この手の映画にありがちな一種のずるとも見えるものをデヴィッド・トゥーヒーは一種の約束と解釈しているようなところがあり、そこにつきあえるかどうかで評価が分かれる難しさを抱えているが、サスペンスの演出はサスペンスの教科書のような出来栄えで、終盤に登場するスプリットスクリーンや回想シーンの使い方もこの監督ならではのこだわりが感じられて面白い。独特の風貌をしたスティーヴ・ザーンの演技が印象的で、ミラ・ジョヴォヴィッチの使い方も悪くない。
パーフェクト・ゲッタウェイ [DVD]

Tetsuya Sato

2012年2月15日水曜日

リディック

リディック(2004)
The Chronicles of Riddick
監督:デヴィッド・トゥーヒー


いちおう『ピッチブラック』の続編。 どこからやってきたのかよくわからないけれどネクロマンガーと自称する連中の軍団が次々と惑星を征服しながらどこかへ向かって進んでいて、その連中をなんとかするためにはリディックでなければだめだということでリディックが呼び寄せられるのである。
錆の浮いたような宇宙船、亀裂におおわれた氷の惑星、夜明けとともに燃え上がる灼熱の惑星、ムスリムな惑星に襲いかかるデコデコな暗黒軍団といった見たようなSFイメージ全開ぶりは掛け値なしに楽しめる。とはいえ話をむやみと大きくした結果、状況に対処するにはリディックの比較的素朴な能力(暗闇でも見える)では間に合わなくなって、リディック自身に滅ぼされた種族の生き残りといったような設定が唐突に加えられている。しかしその設定にしても格別機能しているようには見えないので(結局、ただ強いだけ)、だったらいっそのことストーリーはもっと控えめにしてビジュアルイメージの展開に専念してもらったほうがよかったかもしれない。


Tetsuya Sato

2012年2月14日火曜日

ビロウ

ビロウ(2002)
Below
監督:デヴィッド・トゥーヒー


1943年の大西洋。カタリナ飛行艇が洋上を漂う遭難者を発見し、現場へ急行したガトー/バラオ級潜水艦が男二人女一人を収容する。沈んだのはイギリスの病院船で、夜間にUボートの雷撃を受けたらしい。救出に現われた潜水艦は艦長代行が指揮していて、艦長にはどうも何かが起こったらしい。潜水艦はドイツの駆逐艦に遭遇して潜航し、攻撃から逃れて音を殺していると、なぜかいきなりレコード・プレイヤーが動き出す。探信音が鳴り響き、爆雷の雨が降り注ぐ。だが恐ろしいのは爆雷攻撃だけではない。艦長室のクロゼットには怪しい気配が、壁には怪しい人影が、よどんだ空気は幻影を生み、舵は人間の意思に逆らい、火災は無辜の乗組員を焼き払い、そしてついに潜水艦は暴走を開始する、といういまどきにしては恐ろしく真っ正直な「潜水艦の怪談」で、監督は『アライバル』、『ピッチ・ブラック』とSF路線を進んできたデビッド・トゥーヒー(貨物船の船長役でご本人が登場する)。冒頭、飛行艇の世にも美しい俯瞰ショットや潜舵を伸ばして潜行していく潜水艦といった丁寧なメカ描写がうれしいし、海底で遭遇するエイの群れという異世界的な描写も心楽しい。いつものことで話の作りに破綻はないし、例によってやるべきことはきっちりやっているが、演出に今ひとつ加減がないだけに雰囲気が二の次になっていて、怖さの点では盛り上がりを欠く。そのつもりでディテールを楽しんだ方が正解かもしれない。


Tetsuya Sato

2012年2月13日月曜日

ピッチ・ブラック

ピッチ・ブラック(2000)
Pitch Black
監督:デヴィッド・トゥーヒー


旅客を乗せた辺境航路の宇宙船が遭難し、とある惑星に不時着する。この星には太陽が三つあって夜がなく、しかも土星のような輪を二重に備えた巨大な惑星との連星になっている。生き残ったのは「女性パイロット」「脱獄囚護送中の警官」「暗闇でも目が見える脱獄囚」「タフそうな女性」「不良っぽい少年」「古物商」「巡礼中の4人のイスラム教徒」という組み合わせで、助かったことを喜んだイスラム教徒は早速お祈りをするし、古物商は宇宙船の残骸の屋根にパラソルを立ててワインを抜き、葉巻に火をつけて「人間には贅沢が必要だ」と宣言する。なんだこれは、と思って見ているとこの寄せ集め集団が生存と脱出のための行動をてきぱきと開始し、そこへ地下に潜んでいた獰猛な生物が襲い掛かるのである。怪物は光を嫌うが、この夜のない惑星には22年に一度日食が訪れる。そしてまさにその瞬間が近づいていた。というわけで、荒涼としたクイーンズランドのロケ効果に加えて日食の(今時ないような)天体描写がすばらしく、それを背にして雲霞のように襲来する飛行生物とくるのでイメージの点ではほとんど文句のつけようがない。日食がやってくると題名どおりの「まっくらけ」になり、ただ脱獄囚の目だけに闇の中にひそむ怪物どもの姿が見えるという仕掛けが発動する。惜しむらくは人物描写と展開に少々もたつきのあるところで、これで15分短かったら傑作になっていたかもしれない。


Tetsuya Sato

2012年2月12日日曜日

アライバル

アライバル/侵略者(1996)
The Arrival
監督:デヴィッド・トゥーヒー


地球にはエイリアンがすでに棲みついていて、自分たちの居住に都合のいいように環境の改変を進めていた。地球温暖化はそのせいだったのである。その事実に気がついた天文学者は調査を開始すると、巧みに外見を変えて人類社会に潜入していたエイリアンの妨害に遭遇する。その妨害のせいで天文学者は仕事を失って猛り狂うが、天文学者というのが髭面のチャーリー・シーンで、しかもぶちきれた目をしていたりするので決してあきらめたりはしない。なお単独で頑張ってそこら辺の衛星アンテナを適当に結んで自前で電波望遠鏡を作成し、遂に本拠地をつきとめてメキシコのどこぞにあるエイリアンの棲家に乗り込んでいく。するとエイリアンは刺客を放ち、ホテルの天井を破ってバスタブを落としてきたりするのである。このバスタブ落下シーンの出来映えはもしかしたら映画史に残るのではないかと思う。CGで作られたエイリアンも見事なものだし、人間に化けたこいつらが元の姿に戻る時の骨格に関わるささやかな描写はそれなりに背筋が寒くなる。破天荒なイメージと手控えのない演出が好ましい立派なSF映画である。



Tetsuya Sato

2012年2月11日土曜日

ノベル氏

植民惑星をエイリアンが侵略。通報を受けた地球連邦政府は調査団を派遣する。彼らがそこで見たものは。人類世界を震撼させたナウホワット事件の全貌を豊富な証言で再構成した迫真の「ドキュメンタリー」。(400枚)




『ノベル氏』登場人物
パルパ ・・・・ 宇宙省長官
ヌルミ ・・・・ 宇宙省次官
マルミ ・・・・ 宇宙省次官秘書
ヴオリ ・・・・ 宇宙省特別業務本部本部長
ロベリ ・・・・ 宇宙省ヘルメス計画推進室室長
コックリ ・・・ 宇宙省ヘルメス計画推進室職員、ナウホワット調査団
アルタ ・・・・ 宇宙省文化推進事業室次長
ガバン ・・・・ 宇宙省外来種族管理局局長
ポトフ ・・・・ 宇宙省ムワンザ地区ハローアース所長
ノベル ・・・・ 宇宙省ムワンザ地区ハローアース副所長、ナウホワット調査団
クラム ・・・・ 宇宙省ムワンザ地区ハローアース職員
ラミジ ・・・・ 宇宙省ムワンザ支局契約課職員
スポッツ ・・・ 宇宙省警備局機材、ナウホワット調査団
コンツ ・・・・ 宇宙省元職員
ヨネン ・・・・ 惑星シトヴラク地球連邦権益代表
ザイン ・・・・ 汎惑星協議会理事、スヴェティマス人
エンデ ・・・・ 保健省次官
ソマリ ・・・・ 保健省検疫官
トコイ ・・・・ ムワンザ宇宙港ボイラー室主任
タルミ ・・・・ ムワンザ大学医学部教授
ペルミ ・・・・ 北アイオワ大学宇宙生物学研究所研究員
バベル ・・・・ 政治学者、『無限無責任統治論』の著者
ハメル ・・・・ 政治学者
カムリ ・・・・ 政治ジャーナリスト
セリカ ・・・・ 科学ジャーナリスト、『約束を守れないロボット』の著者
アッカ ・・・・ 作家、『小説 汎惑星協議会・闇の群像』の著者
ラワン ・・・・ ペタルマ・クラブ広報担当
ノット ・・・・ ミダス社社員
ガラム ・・・・ 宇宙船乗員組合広報担当
バルビ ・・・・ 貨客船マリゴラ2の上席士官
ロスト ・・・・ 貨物船マルットの船長
コスト ・・・・ 貨物船マルットの先任士官
ネスト ・・・・ 貨物船マルットの機関長
ダスト ・・・・ 貨物船マルットの船医、科学士官
テスト ・・・・ 貨物船マルットの甲板員
ペスト ・・・・ 貨物船マルットの甲板員
ラスト ・・・・ 貨物船マルットの機関員
カルタ ・・・・ 興行主
デブリ ・・・・ ナウホワット自治政府評議会議長
ラフト ・・・・ ナウホワット自治政府評議会議長補佐官
メルト ・・・・ モメント市の市長
ボトム ・・・・ モメント空港兼宇宙港の港長
オーガ ・・・・ 秘密警察長官
ヒント ・・・・ 情報処理センター技官
コラム ・・・・ 行政センター管理部機材倉庫の管理人
カルマ ・・・・ 行政センター管理部部長
ウプス ・・・・ ワイルドカード社の社長、メグヴェツテゲット人
オラン ・・・・ ワイルドカード社の株主
トロル ・・・・ ナウホワット相互銀行社長
ラモー ・・・・ ラフトの友人
ワイズ ・・・・ ラモーの友人
クポー ・・・・ ラモーの友人
カポー ・・・・ ラモーの友人
アラゴ ・・・・ トロルの甥
ライラ ・・・・ エルダーの娘
コペイク ・・・ コルサコフの長命者
クロアチアのクマ ・・・・ クロアチアのクマ
ローゼンクランツ ・・・・ モルモット
ギルデンスターン ・・・・ モルモット



「緊急連絡ポッドは敵対的なエイリアンの追尾を受ける可能性があります。その可能性にもとづいて、ポッドは地球圏へ到達するまでに三十六回の超空間ジャンプをランダムに実行することになっているのです。しかし、それでも振り切れないかもしれないし、エイリアンがポッドの超空間ジャンプの痕跡を見つけて、そこへやって来るかもしれません。そのとき、そこにたまたま人類の宇宙船がいて、エイリアンに拿捕されて地球の座標を奪われるような事態も想定しておかなければならないのです。だからポッドは途中で遭遇した船舶にウイルスを投入して航法データを消去するようにプログラムされています。ハイヤンの乗組員には同情しますが、ヘルメス計画の実行過程で発生する民間船舶の損害について連邦政府は免責されています。それよりも問題なのは、ポッドのウイルスが陳腐化していて、マリゴラ2のファイアーウォールを突破できなかったことのほうです。ヘルメス衛星はファイアーウォールの進化を予測しながらウイルス・プログラムを自動的に更新する機能を備えているはずなのですが、ポッドが使ったウイルスは百八十年前に作成された母体コードのままでした。衛星のその部分を製造した会社は百年も前になくなっているし、仕様書を調べても何がなんだかわけのわからない有様で、非常に困惑しています。問題はそれだけではありません。ポッドは超空間ジャンプの際にランダムに発生させた座標を使う仕様になっているのですが、実際にはこれがランダムではなく、超空間飛行にかかわるコストを節約するために定期航路にすり寄るようにして設定されていたことがわかったのです。もともとのプログラムがそうなっていたのか、ポッドのAIが勝手にそうしていたのか、原因はまだわかっていません」(本文より)



「もちろん選択肢はあった」遠い目をしてロスト氏は言う。「操縦士だけを残して搭乗員を下ろしてしまえば、もう三人乗せることができたはずだ。銃座から機銃をはずしてしまえば、もう二人乗せることができたはずだ。余分な重量を残らず捨てれば、あと三人は乗せることができたはずだ。たしかに選択肢は存在した。選択肢はあったはずだと、あとからならばいくらでも言える。しかし現実には、目の前にメドヴェド人の大部隊が迫っていた。機銃手は二人とも機銃に貼り付いて銃撃を続けていた。そしてわたしは明確な命令を受けていて、命令を遂行する条件は整っていた。だからわたしは命令にしたがった。もし状況が必要を命じたならば、わたしには現地に残ってメドヴェド人と戦う覚悟があったと、わたしは信じている。必死になって助けを求める人々をあそこに置き去りにしたことでわたしは自分の良心に痛みを感じていると、わたしは信じている。わたしが救出した人々は初めはわたしに感謝し、わたしの判断をやむを得ないものと認めていたが、間もなくわたしを裏切った、とわたしは信じている。艦載艇の搭乗員はわたしに命令の遂行を求め、わたしに出発を急がせたにもかかわらず、間もなくわたしを裏切った、とわたしは信じている。艦長はわたしの判断を認め、あれはやむを得ない犠牲であったと最初のうちは言っていたが、間もなくわたしを裏切った、とわたしは信じている。しかし軍法会議はわたしに無罪を言い渡し、わたしの行動に誤りがなかったことを証言と証拠を使って立証した。軍法会議のあと、わたしは除隊を勧められた。勧められたと言えば、選択肢があったかのように聞こえるかもしれないが、あれは事実上の命令だった。結局のところ連邦宇宙軍はわたしを裏切ったのだと、わたしは信じている」(本文より)



「つまりね、あの巨大な宇宙省は宇宙開発にかかわるすべてのことを所轄しているわけですよ。この、宇宙開発にかかわるすべてのこと、というのはですね、実は植民惑星の行政全般までが含まれているのです。これがどういうことかわかりますか? つまりね、植民惑星の経済、文化、教育、保健衛生などの政策に対する指導権限が、ことごとく、宇宙省というたった一つの役所に集中しているということなんですよ。これはほとんど宇宙省帝国と言っても差し支えないような、とんでもない権限を宇宙省は持っている、ということになるわけですが、意外なことに、事実に反して、という保留がついているのです。宇宙省は権限だけは山ほども抱えているのですが、その権限を実際に行使したことはほとんどありません。ほかの役所がある権限を望んだときに、その権限は宇宙省が持っているぞ、と言うためだけに山ほども権限を抱えているのだ、と申し上げても決して過言ではないのです。そこへ来て、今回のナウホワット事件というわけです。もし宇宙省が植民惑星を適切に指導していたならば、おそらくこのような事件は起こらなかったに違いありません。そしてすでに事件が発生して深刻な事態になっているにもかかわらず、宇宙省は表紙を含めて四ページしかない報告書を精査するのに忙しくて具体的な対策を何一つとして講じようとはしないのです。宇宙省のこの対応に煮え切らないものを感じているのは、おそらく政府部内でもわたし一人ではないでしょうね。以前からある宇宙省分割論を安易に支持することはできませんが、宇宙省の機能について根本的に見直す時期が来ていることは間違いないと考えています」(本文より)


Tetsuya Sato

2012年2月10日金曜日

海底軍艦

海底軍艦(東宝 1963,94分)
監督:本多猪四郎

12000年前に太平洋に消えた謎のムー帝国は超科学を利用して再び地球の支配者に返り咲こうとたくらんでいたが、海底帝国という立地が災いしたのか、頻発する落盤事故はいかんともしがたく、そこで地上に工作員を送り込んで落盤対策の専門家などをさらっていたが、それはそれとしても座視できないのは神宮寺大佐の海底軍艦『轟天号』であり、その秘密を探るために神宮寺大佐のかつての上司、楠見元海軍少将などを誘拐しようともたくらむものの、これはこれで邪魔にあって失敗に終わる。だがそれはそれとして地上の覇権を確保するためには全世界を脅迫する必要があり、そこで各国に脅迫フィルムなどを送り届けてムー帝国の存在を知らしめ、恫喝しようとたくらむが、フィルムの内容があまりにも荒唐無稽であったためか、国連でも相手にしてもらえない。業を煮やしたムー帝国はついに実力行使に打って出て、ヴェネチアを沈めたり、香港を沈めたりということをするが、それはそれとして気がかりなのはやはり神宮寺大佐の海底軍艦『轟天号』なのであって、その神宮寺大佐の秘密基地にはかつての上司、楠見元海軍少将とその一行が訪れ、世界のためにムー帝国と戦ってもらいたいと神宮寺大佐に求めると、こちらはこちらで一種の狂信者なので、神宮寺大佐は要請を拒絶し、そもそも『轟天号』は日本再興のために建造したものであり、それ以外の目的には使用できないと主張する。すると一行に加わっていた神宮寺大佐の娘は父親を拒絶し、一行に加わっていたムー帝国の工作員は神宮寺大佐の娘をさらい、『轟天号』のドックを破壊する。そこで大佐も遂に腰を上げ、ムー帝国と戦うのである。
世にもいかがわしい海底帝国、原潜『レッドサターン』号の沈没、陥没する丸ノ内、突進する『轟天号』、などとそれなりに見せ場は用意されているが、ムー帝国があの超科学にこの風俗、というのが言わば一種の決まりごとであるとしても個人的にはやや受け入れにくい。光線兵器を操る連中が接近戦では槍しかない、というのはやはり信じられないのである。それともあれはみな儀仗兵だったのか。もう一つ、わたしの場合の難点をあげると、それは主役メカの『轟天号』で、つまりわたしはドリル兵器のたぐいに格別の執着をもっていないのである(白状すると嫌いである)。だから先端にドリルがついていても格別感心はしないし、それ以外の兵器が冷凍光線砲だけ、という単調さは問題のように思えてならない。どちらかと言うと現用兵器のほうに関心が寄っているので、『レッドサターン』号が水圧で押し潰されて沈んでしまう、という場面のほうが印象に残るのであろう(こどもの頃、この場面を見てすごいと思った)。ムー帝国も威張っていた割りにはたあいないが、天本英世の神官だか長老だかは、なんだかよい味を出していたような気がする。



Tetsuya Sato

2012年2月9日木曜日

惑星大怪獣ネガドン

惑星大怪獣ネガドン(2005、25分)
監督・脚本:粟津順

昭和百年。テラーフォーミング中の火星で発見された物体を積載した宇宙船が爆発、物体は東京西部に墜落し、クレーターから宇宙怪獣ネガドンが出現する。防衛軍が立ち向かうが歯が立たない、というところで失意のロボット工学者が操縦する巨大ロボット「ミロク二号」が登場、ネガドンと戦う。
フルCGの「昭和三十年代特撮映画」である。宇宙船などにはわざわざミニチュアめいた「てかり」や質感が与えられ、どこかからワイヤーで操演されているような気配もあり、クラシックな兵器類は自衛隊賛助といった風情があってこちらはミニチュアにないリアルさを持ち、無敵のドリルを振りかざす巨大ロボットはただもう趣味のかたまりである。和室の空気、人間の顔の質感、昭和を感じさせるフィルターワークなどを含め、事実上たった一人で二年半かけて作ったという映像にはこだわりが見える。いわゆる映画として評価が難しいとしても、映像作品としては賞賛すべきであろう。方法論としては『スカイキャプテン』に通じるところがあるものの、かと言ってアーティフィシャルにするのではなく、敢えてガジェットに徹するという思い切りというのか偏愛というのか、このよくわからない取り組みぶりは結果としてはひねりにも感じられる。




Tetsuya Sato

2012年2月8日水曜日

太平洋の嵐

太平洋の嵐(東宝 1960、118分)
監督:松林宗恵

真珠湾奇襲攻撃からミッドウェイ海戦まで。いちおう夏木陽介扮する艦上爆撃機の航空士が主人公で、淡々としたモノローグが挿入されたり、休暇で家へ帰ったり、いきなり祝言をあげる話になったり、まさしくそうしようとしているところへ本隊からの帰還命令が届いたり、といったことが起こるものの、映画自体が格別のドラマを求めていないため、特に存在感を発揮しているわけではない。ということでオールスターキャストのドキュメンタリータッチなのだと言えば聞こえがいいが、実際には単に凡庸で魅力に乏しいだけであろう。昔は興奮した円谷特撮も同一スケール内で大半のショットを処理するため、こまかいカット割りに慣れてしまったこちらの目にはむしろ工夫を欠いているように見えてくるのが少し悲しいような気もする。 




Tetsuya Sato

2012年2月7日火曜日

ハワイ・マレー沖海戦

ハワイ・マレー沖海戦(東宝 1942、117分)
監督:山本嘉次郎

前年の真珠湾奇襲攻撃とマレー沖海戦のドキュメンタリー調映画化。大本営海軍報道部が企画したらしいが、聞いたところによると海軍はほとんど協力しておらず、空母の写真すら見せようとしなかったので(秘密兵器だから)東宝側の制作陣はかなり苦労したらしい(というわけで赤城の甲板はセットである)。登場人物は木偶の坊同然で映画としての魅力はほとんどないが、円谷特撮の原形を見る上では価値がある。




Tetsuya Sato

2012年2月6日月曜日

上海陸戦隊

上海陸戦隊(東宝 1939,89分)
監督:熊谷久虎

1937年7月の盧溝橋事件から一ヶ月後、いわゆる第二次上海事変で中国正規軍が上海を包囲した8月12日あたりから始まり、拠点防御にあたった海軍陸戦隊の一個中隊が圧倒的な中国軍の兵力と数日間にわたって交戦し、全滅するまで。
実際に上海でロケがおこなわれた模様で、海軍が映画の監修にあたり、中隊本部の様子、前線の陣地の様子、交戦の風景などがリアルに描かれていて、強化された機銃陣地の制圧が難しいこと、そもそも兵站線が弱いことがよくわかる。原節子が抗日的な中国人少女の役で登場したりするもののドラマは最小限の扱いで、おおむねドキュメンタリー調に終始するが、各小隊と中隊本部の位置関係、中国軍の脅威方向などについての説明がないのが惜しまれる、というか、状況を空間的に把握しようという試みはおそらく最初からおこなわれていない。ある種の実録としては面白いが、それ以上のものとは考えにくい。劇中でベルグマン短機関銃を使用している光景を見ることはできなかったが(ちょっと期待していた)、陸戦隊の車両として戦車(ルノー?)と装甲車(ヴィッカース?)などが登場する。 
なお、以下の動画は上海事変に投入されたヴィッカース装甲車に関するもので、上記の映画とは何も関係がない。




Tetsuya Sato

2012年2月5日日曜日

インシディアス

インシディアス
Insidious
2010年 アメリカ/カナダ 103分
監督:ジェームズ・ワン


ジョシュとルネの夫婦が幼い三人のこどもと一緒に新しい家に越してくると、あるはずのものがなくなったり、本棚の本が飛び出したり、ベビーモニターから奇妙な声が聞こえたりといった怪現象が続発し、こどもの一人ダルトンがある朝原因不明の昏睡状態に陥るとルネは家の中に怪しい人影を見るようになり、これはこの家に何かあるということでジョシュとルネの夫婦は別の家に引っ越すが、そこでもすぐに怪現象が起こってルネの前に恐ろしい影が現われ、ジョシュの母親は事情を察してその方面の専門家を呼ぶように助言し、専門家の目の前にもすぐさま幽霊のたぐいが現われるので、霊能力者エリーズが招かれ、エリーズは怪現象の正体とダルトンの昏睡状態の原因を見破り、解決のためには非常識な手段が必要であると訴え、幽体となってかなたにあるダルトンの霊魂を呼び戻すために交霊術のようなことをおこない、怪現象のさらに恐るべき正体によって交霊術のようなことが失敗するとジョシュの母親はジョシュの過去を語り、幽体離脱の能力を備えていることが判明したジョシュが息子を救うために霊界に飛び込んでいく。
幽霊、悪魔、幽体離脱に心霊写真ともりだくさんの内容がいささか暴力的ではないかと思えるほどの力技で盛り込まれていて、それぞれの要素はそれなりに消化されていて、見終わってみると視覚的な構成が意外なほど整然としていることに気づかされる。怖がらせる、ということに集中しているという点ではまったく迷いのない映画であろう。というわけで、怖がらせることに集中しているときに、やり方にデリカシーがないと指摘するのはルール違反かもしれないが、このデリカシーの欠如はどうしてもいくらかの不快感を催させる。 






Tetsuya Sato

佐藤亜紀『メッテルニヒ氏の仕事』第二回

文學界 2012年3月号に『メッテルニヒ氏の仕事』第二回が掲載されています。



Tetsuya Sato

ポセイドン・アドベンチャー

ポセイドン・アドベンチャー(1972)
The Poseidon Adventure
監督:ロナルド・ニーム


ポール・ギャリコの同名の原作に基づく。地中海を航行中の大型客船「ポセイドン号」がクレタ島沖の地震で起こった津波に出会い、折からバラストに問題を抱えていたことが災いして転覆する。転覆と同時にブリッジにいた高級船員は全滅し、生き残った乗客の一部は脱出路を求めて上下逆転した船内を進んでいく。その先頭にはスコット牧師が立っていたが、これはいささか問題のある人物で、船上ミサでも神は多忙すぎて個人に心を向ける暇がないと断言し、したがって内なる神の言葉に耳を傾けよと明言し、そういう発言のせいで教区を追われてアフリカ某所へ転任していく途中であった。神に対しても教会に対してもどうやら怒りを感じていて、そのせいで恐れるものがあまりない。そういうひとを先頭に立てて進んでいったので余計に面倒に巻き込まれた、というのがたしかギャリコの原作であったが、映画のほうは「余計に」という肝心の部分が抜け落ちていて、そのせいで神との関係に逃げ場がなくなっている。つまり神に手出しをするなと命じて、それで終わっているのである。察するに信仰が揺らいでいた時期の映画なのであろう。








ポセイドン・アドベンチャー(2005)
The Poseidon Adventure
監督:ジョン・パッチ


こちらはテレビ映画。アラブ系のテロリストがポセイドン号の船底近くで爆弾を爆発させるので、ポセイドン号は流れ込んだ大量の海水によってメタセンター高さが狂い、復原力を失ってあっという間に転覆する。津波のせいでも海底地震のせいでもないのである。
作り手がモラルを見失って単なる遭難シミュレーションになってしまった 『ポセイドン』 に比べると、まだ登場人物がモラルのようなものを備えている分、いくらか広がりのようなものが見えはするものの、テロリストの動機も目的もよくわからず、わざわざテロリストのせいにする理由もわからない、という有様ならばやはり津波でひっくり返したほうがよかったのではあるまいか。
テレビの前後編ミニシリーズで上映時間が合計3時間もあり、だからボールルームに残った乗客の話であるとか、海難事故を知って救助に動く第五艦隊であるとか、そういうエピソードが大幅に追加されており、特に転覆した直後あたりはほぼ全員が役割どおりにてきぱきと動くので、中盤あたりの雰囲気は悪くない。ただ、結果としては3時間という枠があだになったようで、終盤、いきなりむちゃな展開になって時間稼ぎとしか思えないような間の抜けた台詞や状況が次から次へと場をふさぎ、見ているこちらを果てしなくいらいらとさせることになる。それにしてもメガシップというのはどこから見ても無様で不作法なしろものである。それと、ピーター・ウェラーは船長に全然見えなかったし、その名前がポール・ギャリコってどういうことだ?










ポセイドン(2006)
Poseidon
監督:ヴォルフガング・ペーターゼン


中南米のどこかからアメリカの東海岸を目指しているとおぼしき七万トンから十万トン程度の大型客船が大西洋上で唐突に襲いかかった津波にあおられてものの見事に転覆し、生き残った乗客が上下逆転した船内を脱出路を求めて船底を目指す。
1972年の『ポセイドン・アドベンチャー』のリメイクである。ただし状況は単純化されていて、なにがなんでも転覆するのだから、という理由でスタビライザーがどうの、バラストがどうの、という説明もいっさいはぶかれ、予告もなしに水平線を埋めて津波がやってくると、もう本当に無条件で転覆するのである。この思い切りのよさには感心した。それもただ転覆するのではなく、いったん復原したあと、爆発を起こしてまたひっくり返るという具合にていねいに転覆してくれるので、そのあたりのスペクタクル描写はかなりすごい(ただ、上下逆転という特異な状況はそれほど生かされていない)。そして壊滅的な被害をこうむった船内には72年版にはほとんど姿を見せなかった無残な死体がごろごろと転がるのである(KNBはレプリカをいっぱい作ってよい仕事をしていたと思う)。
しかしながら映画自体はそれほどほめられたものではない。出演者はリチャード・ドレイファスを除けば軽量級、人物は造形が乏しく、プロットについても中盤、脱出経路にバラストタンクが選択され、プレッシャーバルブの連鎖反応を引き起こした結果、状況がさらに悪化する、といった新しいアイデアも盛り込まれてはいるものの、展開には魅力よりも疑問を多く感じさせる。ヴォルフガング・ペーターゼンだからということになるのかもしれないが、凄惨な現場を見せ物にすることだけを目指したような妙に質実剛健とした悪趣味があり、98分というこのクラスの映画には珍しい短めの上映時間が、おそらく発想のB級ぶりを証明している。そしてその範囲では決して嫌いではないものの、やはりそれだけでは困るような気がしないでもない。あと、パーティのシーンでは、やっぱり「モーニング・アフター」を歌ってほしかった。





Tetsuya Sato

2012年2月4日土曜日

ムカデ人間

ムカデ人間
The Human Centipede(First Sequence)
2009年 オランダ 90分
監督:トム・シックス


アメリカ人女性の旅行者二人がレンタカーで移動中にドイツの森で道に迷い、タイヤがパンクしたので車を捨てて森をさまよい、ようやく見つけた家で助けを求めると、その家のあるじであり高名な外科医でシャム双生児の分離によって名を知られ、すでに三頭の犬を使って恐るべき実験を終えていたヨーゼフ・ハイター博士は二人を迎え、助けを与えるようなふりをしながら薬を使って二人を眠らせ、二人が目覚めると医療用の寝台に拘束されていて、隣の寝台には三人目が同じように拘束されているが、ハイター博士はその三人目を適合しないという理由で薬殺して家の庭に埋葬し、それからどこからともなく三人目をさらってきて寝台に拘束すると、これが関西弁しかしゃべらない日本人で、この日本人が博士に向かって罵声を浴びせる一方、博士は一方的に三人に向かって説明を始め、さっそく手術の準備にとりかかるので、女性のうちの一方が博士の隙を見て逃げ出し、捕えられて真ん中に使うという宣告を受け、そして手術がおこなわれ、博士は自分の仕事ぶりに満足して結合された三人をもてあそび、反抗すると鞭で打ち、そうしていると警察から刑事が二人やってくるので、博士はほとんど条件反射のように動いてこの二人も薬を使って眠らせようとするが失敗し、刑事は捜査令状を取りに戻り、博士が刑事の応対をしているあいだに博士のムカデ人間は博士に対して抵抗を試み、博士に傷を負わせて逃げ出すので、それを博士が床を這って追っていくと刑事が戻ってきて博士の家のドアを叩く。少しでも常識があったら恥ずかしくてやらないようことを大真面目にやっていて、腑に落ちないところも少々あるものの、映像の品位は水準にあり、ハイター博士に扮したディーター・ラーザーの怪異な風貌と犠牲になる三人の熱演(特に先頭に配置される北村昭博)、よく考慮された美術と緊張感のある演出で鑑賞に耐える作品に仕上がっている。単なる悪趣味が悪趣味に終わっていないところは評価すべきであろう。 






Tetsuya Sato

2012年2月3日金曜日

将軍と参謀と兵

将軍と参謀と兵(日活 1942,90分)
監督:田口哲

昭和16年の北支戦線。日本軍は中国軍に対して包囲殲滅戦を強行するが、図らずも敵の強力な防御戦に遭遇し、強行突破を試みても犠牲者が出るばかり、砲撃で無線機まで破壊されてしまうので勇敢な参謀は敵の弾幕の中へ馬を駆り、我が身を犠牲にしながら救援を呼び寄せて作戦を成功へと導くのであった。昭和17年に製作されたいわゆる戦意高揚映画で、実際に中国山西省でロケされている。阪妻が日本軍の将軍で、参謀がああでもないこうでもないと騒ぐのをうんうんと黙って聞いている。たぶん「いいひと」という設定なのであろう。だから部隊が食糧不足に悩んでいるところで従兵が頑張って卵を調達してくると、卵がうまかったぞ、と部下の苦労をねぎらうのである(若い参謀が自己犠牲で戦死しても福々しい感じが崩れないのが奇妙ではあるが)。タイトルが示すように、将軍、参謀、兵士、さらに従軍記者と前線部隊を多面的に描こうという意欲があり、戦闘シーンも派手さはないものの、それなりの迫力がある。これで中国軍側も公平な視点で描いていれば悪くない戦争映画に仕上がったのではないかと思うのだけど、戦意高揚映画なのでそういうことはやってない。ちなみにクライマックスで救援にやってくる戦車は戦車ではなくて九四式軽装甲車「TK」で、いわゆる「豆タンク」である。これが十両ほど戦隊を組んで進んでくる場面はなかなかに印象的であった。 
なお、以下の動画はいずれも上記の映画とは関係がない。
上は昭和14年の大行山脈討伐戦に関する記録映像、下は九四式軽装甲車に関する映像である。



将軍と参謀と兵 [VHS]

Tetsuya Sato