2012年1月4日水曜日

黙示録の四騎士

黙示録の四騎士(1921)
Four Horsemen of Apocalypse
監督:レックス・イングラム

原作は『われらの海』などのヴィセンテ・ブラスコ・イバニェス。アルゼンチンの大地主マダリアガには二人の娘があり、そのうちの上の娘はフランス人の男を婿に取り、下の娘はドイツ人の男を婿に取っていた。下の娘とドイツ人との間にはドイツ人と同じような鉄縁の眼鏡をかけたこどもが三人もあったが、大地主はこの三人に愛情を抱くことができなかった。ところが上の娘とフランス人との間に男の孫が生まれると大地主はこれにフリオと名付けて愛情を注ぎ、やがてフリオが成長すると放蕩三昧を教え込む。次女とドイツ人と間にできたこどもたちもすくすくと成長していよいよ父親と見分けがつかなくなっていたが、その一家の不安と言えば財産を残らずフリオが受け継ぐのではないか、ということであった。噂によれば大地主はそのために遺言を書き換えようとしているという。だが実際にそうなる前に大地主の寿命は尽き、莫大な遺産は長女と次女で分かち合い、そうならなかったことでフリオはどうやら失望を味わう。
さて、次女を妻とするドイツ人カール・フォン・ハートロットは息子たちに正しい教育を受けさせるためにドイツへの移住を決意する。一方、長女を妻とするフランス人マルセル・デノワイエは妻からフランスへの移住を持ちかけられて、正体を明かさざるを得なくなる。デノワイエは社会主義者として手配されていたのであった。だが、それはそれとしてそれでもパリへ移り住むことになり、いったん移り住んでしまうともうどうでもよくなったのか、デノワイエはマルヌに城を買い、そこをいかがわしい骨董品の山で埋めていく。そしてその息子フリオは画家を自称してアトリエを持ち、裸婦ばかりを描いていたせいなのか、親からの資金援助を打ち切られる。そして金を無心しに実家を訪れたところで技師ロリエの妻マルガリータと出会い、二人は一瞬で恋に落ちる。実を言えば、マルガリータはすでにフリオの存在を知っていた。フリオはタンゴ・パレスのスター・ダンサーだったのであった。
そのタンゴ・パレスではフリオはマルガリータとしか踊らなくなり、当然ながらその有様は目撃されて、夫ロリエの知るところとなる。ロリエはフリオのアトリエに踏み込み、二人の密会の現場を押さえるとフリオに決闘を申し込む。だがそのとき第一次世界大戦が勃発し、ロリエは制服に身を包んで前線におもむき、マルガリータもまた看護婦に志願する。マルヌの城はドイツ軍に占領され、デノワイエの骨董品はドイツ兵に好きなように扱われ、出征した技師ロリエは目を負傷して戻り、病院でマルガリータの看護を受けるが、ロリエにはそれが妻だとはわからない。そしてそこへフリオが現われ、光を失った夫の前で二人は短い逢引をする。やがてそのフリオも出征して前線で敵の兵士と遭遇するが、それはドイツへ移住したいとこなのであった。驚いて見つめあう二人の真上で非情の砲弾が炸裂する。同じ頃、パリではマルガリータが夫を捨てて家を出ようとしていたが、そこへ戦死したばかりのフリオの亡霊がいさめに現われる。するとマルガリータは自らの軽率な行動を恥じ、夫への愛に生きることを誓うのであった。
というわけで新大陸から旧大陸へ移住した二組の一家は戦争によって財産を失い、こどもを失い、こんなことなら新大陸にいればよかったと嘆くのである。話の舞台はアルゼンチンからパリ、マルヌとダイナミックに移動し、不倫関係のメロドラマに歴史の荒波が覆いかぶさるというのはスケールの大きさと見なすべきであろう。いとこ同士が戦場で敵味方に別れて遭遇する、というパターンはこのあたりが走りなのかもしれないが、それはそれとして、これのどこが黙示録の四騎士なのかというと、フリオのアトリエの上の階に怪しいロシア人が住んでいて、デューラーの挿し絵が入った黙示録を自慢そうに取り出して説明するからなのである。以降、戦争の悲劇などが現われると四騎士が駆け抜けていく光景が象徴的に挿入される仕掛けになっていて、それ自体は視覚的に面白い見せ物になっている。とはいえ、そこに黙示録的な意味合いを見出すには見ているこちらが荒み過ぎていてちょっと難しい。
黙示録の四騎士 [VHS]

Tetsuya Sato