2012年1月7日土曜日

狼は天使の匂い

狼は天使の匂い(1972)
La course du lie`vre a` travers les champs
監督:ルネ・クレマン


フランスの海岸で事故を起こしてジプシーの子供たちを殺した男トニーはジプシーに追われてアメリカに逃れ、傷を負わされてカナダに逃れ、モントリオールの万博会場で殺人事件を目撃したことでチャーリーが率いる泥棒の一味に捕えられる。そして一味が根城とする湖畔の小さなホテルに監禁されるが、物怖じしないトニーにチャーリーとその一味は引き寄せられ、間もなく仲間に数えられるようになり、一味が仕組んだ大仕事に加わって一緒に警察本部を襲撃する。
老境にある泥棒がロバート・ライアン、ジプシーに追われて逃げているのがジャン=ルイ・トランティニャンである。冒頭からすでにルイス・キャロルが引用され、ウサギやチェシャ猫の表象が現れ、逃走経路には忽然と穴が出現し、追い詰められて孤立した男たちの少々ファンタジックな精神世界が現実世界の襲撃にあって童心へと逃げ込んでいく。だから最後は大の男が二人してベビーベッドにもぐり込み、ビー玉を賭けてライフルを構えることになるのである。ある意味、『ワイルド・バンチ』に近接した作品だが、ルネ・クレマンの老成した視線に批評性はなく、このわがままで見栄っ張りな男たちをもっぱら暖かく見守っている。明瞭に配置されたキャラクターがよく描き込まれ、どこかで別の声を聞いているような不思議な演出がきわめて強い印象を残す。
狼は天使の匂い [DVD]

Tetsuya Sato