2011年12月29日木曜日

World War Z

マックス・ブルックス『World War Z』(浜野アキオ訳、文藝春秋)


人間をゾンビ化する疫病が蔓延し、人口の大半がゾンビと化した状況で人間とゾンビの戦争が始まり、その戦争から十年後に世界各地の人々から証言を集めたという、言わば架空のインタビュー集で、スタッズ・ターケルの『よい戦争』に感化を受けて書かれたということだが、構成などにたしかに影響が見える。証言をするのは一般市民、戦争に参加した兵士から政策決定に関与した人々、さらには戦争の期間中ISSに残って偵察衛星の燃料補給に従事していた宇宙飛行士まで多岐にわたり、その多声性は格別で、同時に感心したのは証言者のそれぞれが明確にビジョンをたがえていることで、フィクションとしてのこの作り込みは半端ではない。書き手が現代史を含む歴史的なパースのなかで状況を想定しているのはあきらかであり、その知的な態度はきわめて好ましいと言える。日本に関する記述も登場するが、ここだけ奇妙に異色を放っているのは、ゾンビを相手に座頭市がしたかった、というそれ以上の理由ではないような気がする。




Tetsuya Sato