2011年12月28日水曜日

ぼくのゾンビ・ライフ

S・G・ブラウン『ぼくのゾンビ・ライフ』(小林真理訳、太田出版)


34歳で妻と娘のいる「ぼく」は交通事故で死んだあと、ゾンビとなってよみがえり、両親の家のワインセラーに幽閉されることになるが、たまに外出してカウンセリングを受けたり、ゾンビの集会に出たりしているうちに、次第にゾンビとしての自覚に目覚め、目的意識を抱き、ゾンビと恋をしたりゾンビに友情を抱いたりしながら、ゾンビの権利のために戦うようになり、やがてその活動が全米のマスコミの注目を集めていく。
この小説におけるゾンビは宇宙から降り注いだ放射線の影響でも謎のウィルスのせいでも軍の化学兵器のせいでもなく、遺伝的な要因から一定の割合で出現し、社会的にはかなり昔からマイノリティとして扱われていたことになっていて、語り手は婦人参政権や60年代の公民権運動、ゲイムーブメントも同格の問題として眺めるので、ゾンビの権利もまたその延長線上に浮上してくることになる。ゾンビという言わば生き方をゾンビの立場から詳細に描き、その周辺に現代アメリカの言論およびメディアの挙動を散りばめながら、最終的にはゾンビとしての言わば生の実感をドラマチックに立ちあげていく語り口は面白い。一人称のテキストはモダンなアメリカ小説の典型に近く、無用のレトリックや日常的な雑感でやや言葉を飾りすぎているようなところがあるが、全体としての強度は高く、読み応えのある作品に仕上がっている。作者が言うようにチャック・パラニュークの感化で書かれたとすれば、チャック・パラニュークよりもうまいと思う。




Tetsuya Sato