2011年12月15日木曜日

アイアン・ジャイアント

アイアン・ジャイアント(1999)
The Iron Giant
監督・脚本:ブラッド・バード
宇宙から飛来した怪ロボットと少年との交流を描くアニメーション映画である。キャラクターのデザインについては好みがわかれるところであろうが、絵はとにかく美しい。特に冒頭のスプートニクから嵐へと至る描写は圧巻である。またアイアン・ジャイアントと軍隊の戦闘シーンはどこかで見たような場面をずらりと並べたようなところがあって、これはただもう嬉しかった。しかし物語の舞台を50年代に設定したのは、なにも懐かしいロウ・テク軍隊を登場させるためだけではないだろう。背後にマッカーシズムの爪痕を残し、未来にはキューバ危機とベトナム戦争が控えていて、しかも多くのアメリカ人が今にも空から何かが落ちてくるのではないかと気にしていた時代である。空から降ってくる一切の物は悪しき物であった。それを良き物として描くことによって、この映画は伝統的なアメリカ的ヒロイズムを現代的な趣旨に置き換える。そこに現われるのは不気味なタイツの下に隠された無比の筋肉ではなく、鋼鉄の硬さを持った無私の正義と非暴力である。おそらくは今だからこそ望まれる理想主義であり、この姿勢だけでもこの映画は評価に値する。単に絵が美しいだけではない。映画が語ろうとしているものも美しいのだ。
アイアン・ジャイアント 特別版 [DVD]

Tetsuya Sato