2011年12月9日金曜日

ジョン・フォード『静かなる男』(1952)

静かなる男(1952)
The Quiet Man
監督:ジョン・フォード


少し昔のアイルランド。汽車はキャッスルタウンの町にいつもと同じように三時間遅れで到着し、汽車から降り立った余所者の男はイニスフリーへの道を訊ねる。ショーン・ソーントンと名乗るこの男はイニスフリーの出身で、すでに幼い頃アメリカに渡っていたが、諸般の事情で帰郷を決意し、イニスフリーの村を訪れて住むべき家を発見し、続いて妻になるべき女性を発見する。ところがこの女性は気性の激しい赤毛であり、その兄は因業で知られた男であり、しかも村ではことあるごとに陰謀がおこなわれ、カトリックと聖公会がいかがわしく共存し、パブにはI.R.A.まで出没するのでいろいろと滑稽で愉快なことが起こるという話である。
うんざりするほど緑豊かなアイルランドの風景が美しく、また素朴な田舎の村の人々の、素朴でなければ現われないようなストレートな腹黒さが面白い。皆がそれなりに腹に一物を収め、結局まとわりつくのは嫁の持参金の話、ということになるので、実は見た目ほど明るい話ではないのである。ただジョン・フォードの演出は品位と活力があるので影が差した話にほどよく光を注ぎ、適当なところで野を越え川を越えのとんでもない殴り合いに持ち込んで大団円で終わらせてくれる。いかにもアイルランド然とした村人たちのキャラクターが見ていて楽しい映画である。業腹な兄ダナハーに扮したヴィクター・マクラグレンが魅力的。これに比べるとジョン・ウェインは精彩を欠く。かなり積極的な恋愛場面になったりすると、やっぱり苦手なのかな、と思ったりする。そして相手役のモーリン・オハラはやっぱり美しいのである。 
静かなる男 [DVD] FRT-190


Tetsuya Sato