2011年10月16日日曜日

シュトラフバット

捕虜大隊 シュトラフバット(2004)
Shtrafbat
監督:ニコライ・ドスタル


第二次大戦中の懲罰大隊を扱ったロシア製のテレビミニシリーズで各話50分の11話構成。


第一話:ドイツ軍の捕虜となったツヴェルドクロフ(だったかな)少佐はヴラーソフ軍団への誘いを蹴って処刑されるが、弾が急所をそれたために墓穴から這い出して収容所を脱出、途中、ソ連軍敗残兵に拾われて戦線を突破する。するとさっそく階級が剥奪され、保安部隊による取り調べが始まり、処刑される代わりに懲罰大隊の指揮官に任命される。その大隊には収容所から社会的親近分子や人民の敵が集められ、集結地点から前線まで列車で送られるあいだに内輪の喧嘩で36人が死亡する。到着した大隊の兵士たちに大隊長は檄を飛ばし、大隊は戦場を目指して進んでいく。が、見た感じではせいぜい二個小隊くらいしか兵隊がいない。無頼漢の頭目がそれらしい風体で登場したり、無頼漢が歌を歌ったり、といった場面は珍しい。ソ連兵の制服が全体にからだに合っていない、というのはリアリズムを目指した結果であろうか。ロシア版『バンド・オブ・ブラザーズ』というにはあまりにも低予算だが、いちおうのデザインとテンションは備えている。


第二話:懲罰大隊は初めて戦闘に参加し、ドイツ軍の陣地の真正面に敷設された地雷原へ突っ込んでいく。戦闘場面はかなり小規模で小火器中心、砲撃の着弾と地雷の爆発が区別できない。ということで格別力は入っていない。懲罰部隊の背後には青帽をかぶった保安部隊が控えていて、脱走兵や憶病者を殺すために骨董品の機関銃を配置している。ドイツ軍陣地攻撃に成功した大隊の兵士たちは早速略奪に取りかかり、シュナップスをがぶ飲みする。ソ連軍の師団本部には良い将軍とその副官、悪い青帽の少佐がいつもトロイカで並んでいた。


第三話:食料事情が悪化した懲罰大隊の兵士たちはドイツ軍の制服を着込んで保安部隊の食料庫を襲撃する。保安部隊の兵士たちがことさらに太っているのが面白い。ふつうにやればシットコムになるはずの状況だが、大真面目なので決してそうはならないのである。師団本部ではあいかわらず良い将軍とその副官、悪い青帽の少佐がトロイカで並んでいた。ときどき登場する回想シーンはちょっと邪魔。 


第四話:懲罰大隊は補充兵を加えて攻撃を敢行、ウクライナの村を奪還し、兵士たちは男ひでりの村の女たちと交歓し、五十八条組は寝床で体制批判をする。戦闘シーンはあいかわらず貧弱だが、登場する銃器類の銃声がそれぞれに性格があって本物らしいのには感心する(MP40は軽快で、PPSh41は騒々しい。ちなみに懲罰部隊の兵士たちはいつの間にか鹵獲品のMP40を主力火器にしてしまっている)。


第五話:懲罰大隊に危険な偵察任務が下り、一方、第四話の戦闘で故意の負傷をした新兵は軍医に見逃してもらって入院し、そこで看護婦に恋をする。二つの話がまったく無関係に並行して進むのである。無頼漢のグリモフ中隊長がいい感じ(腰にルガーをぶら下げている)。偵察から帰還した兵士たちを保安部隊の少佐が尋問すると、取調官的な誘導方法(たしかにそうだったかもしれない、でも一般的にはこういうこともあり得るのでは)が登場する。どうやら真の敵はドイツ軍ではなくて、やはり保安部隊になるみたい。


第六話:一日の休暇。元強盗のグリモフ中隊長は牛をつかまえ、村に住む戦争未亡人に牛の世話を頼んだところ、二人はなんとなくいい仲になる。一方、故意の負傷で入院中の新兵も目当ての看護婦といい仲になるが、退院して懲罰大隊に戻される。その大隊ではグリモフ中隊長のところへ戦争未亡人が訪れて、ここで二人は気持ちを明かしてすっかり恋仲になる。だが大隊はまたしても危険な任務に送り込まれ(二台並んだドイツ軍戦車の地域射撃圏内に突撃する)、重大な損害を受けて後退する。


第七話:人員の補充を受けた懲罰大隊は解放されたばかりのウクライナの町に到着し、そこで敵残存勢力の掃討にあたる。だが腹を空かせた懲罰大隊の兵士たちは同胞を相手に悪事をおこない、事実を知った保安部隊の少佐はそれ見たことかと大隊長のシュテファノヴィッチを締め上げにかかる。だが、そのとき、ドイツ軍の反攻が始まり、町の神父も死んだ兵士の銃を取って戦いに加わり、神父はそのことによって穢れを受けるので三年間は正餐式をおこなえなくなる。兵士たちが暇つぶしにやる『モンテクリスト伯』の要約が面白い。キャラクターが新たに加わり、保安部の少佐の悪役ぶりにも磨きがかかり、なんだかストーリー物のような展開が始まっている。


第八話:第七話で登場した神父はそのまま志願兵として懲罰部隊に残り、山上の垂訓についての講和などをしているが、保安部隊のカルチェンコ少佐はもちろん快く思わない。少佐は大隊長にそのことでからみ、その直後、戦闘が始まり、懲罰大隊はドイツ軍機甲部隊の攻撃にさらされ、二十人足らずを残して事実上、全滅する。


第九話:カルチェンコ少佐の疑念(おもに第三話と第七話の状況に基づく)によって大隊長は逮捕され、大隊長は供述を拒んで拷問を受ける。一方、懲罰大隊には新たな補充兵とともに新たな大隊長が着任し、札付きの兵隊リョッカは前線の中間地帯でドイツ軍の食料倉庫を発見する。リョッカは一人でたらふく飲み食いをしてから発見をグリモフ中隊長に伝え、リョッカを含むグリモフ中隊長とその一味は夜間に食料倉庫を訪問、そこで同じように略奪にやってきたドイツ軍の兵士と遭遇する。


第十話:保安部隊のまともそうな少将(というのが第七話から登場している)の手配によってシュテファノヴィッチは大隊に一兵卒として戻される。同じく保安部隊のカルチェンコ少佐は食料倉庫の一件を聞きつけて食料強奪作戦を自ら立案、陣頭指揮に立つものの、少佐自身の行動によって戦端が開かれ、懲罰部隊は大損害を受けて後退する。なお、このかん、懲罰部隊の面々は第七話で登場したミハイル神父の感化を受けて、とても敬虔になってきていて、略奪品のラム酒を飲むときにもちゃんと食前の祈りを捧げていた。


最終話:赤軍の機関銃二個中隊及び砲兵二個中隊を加えて旅団編成に膨れ上がった懲罰大隊はドイツ軍正面で大規模な渡河作戦を決行、対岸への上陸に成功してドイツ軍の拠点を奪取、そのまま拠点防御を開始するが、最初から見捨てられている、という理由で増援を受けられないまま全滅する。


全体をとおしての印象としては、低予算ながらも真面目で好感の持てる作りであった、ということになる。1930年代を背負う形でいかにもそれらしいエピソードや会話が混ぜ込まれているし、保安部隊の陰険な習性、無頼漢の性懲りもない生態、政治犯が歌う歌の歌詞(スターリンがキーロフを殺した!)、いかにもな神父の登場など、興味深い場面がたくさんあって、その方面に関心を抱いて見ればかなり面白い。ちなみに最終話のエンディングロールでは赤軍に存在したすべての懲罰大隊のリストが紹介され、それが画面に収まりきらない、という有様には見ていてちょっとぞっとした。最後に示される数値は1000を越える懲罰中隊があったことを告げるが、一個中隊が通常の戦時編成で200人程度であった、と考えると、20万人を越える規模の懲罰部隊が全体では存在したことになり、もう一度ぞっとした。 
捕虜大隊 シュトラフバット DVD-BOX



Tetsuya Sato