2011年10月11日火曜日

デイヴィッド・ベニオフ『卵をめぐる祖父の戦争』

ドイツ軍包囲下のレニングラードで1941年の大晦日、十七歳のレフ・アブラモヴィッチ・ベニオフは空から降りてくるドイツ兵の死体を発見し、その死体からナイフを取ったことでNKVDに連行され、留置場でコーリャと名乗る二十歳ほどの脱走兵と一緒になる。そして翌朝、NKVDの大佐から娘の結婚式のために卵1ダースを一週間以内に集めるという指令を与えられ、コーリャとともに真冬のレニングラードで卵を探すことになり、もちろん市内では見つけることができないので、前線を越えてドイツ軍占領下にある農場を目指し、道を誤ってパルチザンと行動をともにすることになり、ドイツ軍に追いつめられて捕虜にまぎれ、あげくにSS特別行動部隊に囲まれる。小説は祖父の回想という形式を取り、いかにもありそうな細部が稠密に描き込まれている。それはNKVDへの恐怖であり、恐るべき飢餓にさらされたレニングラードのパノラマであり、ドイツ軍の特別行動の外環であり、そのどれもがプロットにうまく練り込まれている。この作品に問題があるとすれば、そのモダンで娯楽性の高いプロットであり、そのプロットを成立させるために歴史的な状況を利用することへの、言わば言い訳としてのメッセージ性である。勝手な話だが、そのあたりまで含めてあまりにもバランスよく収まっているのが気に入らないと言えば気に入らない。加えて、語り手にしても、その相棒のコーリャにしても、パルチザンなどの周辺人物にしても、要領よくステレオタイプを流用し、足りないところはタグ付けをして補うという処理がおこなわれていて、それを面白いと感じるか、手続きがメカニックだと感じるかは読み手によって分かれるところであろう。たぶんに劇的であることに、たぶんわたしは反発している。

卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1838)

Tetsuya Sato