2011年10月7日金曜日

ブラッド・バードを観ていますか



アイアン・ジャイアント(1999)
The Iron Giant
宇宙から飛来した怪ロボットと少年との交流を描くアニメーション映画である。キャラクターのデザインについては好みがわかれるところであろうが、絵はとにかく美しい。特に冒頭のスプートニクから嵐へと至る描写は圧巻である。またアイアン・ジャイアントと軍隊の戦闘シーンはどこかで見たような場面をずらりと並べたようなところがあって、これはただもう嬉しかった。しかし物語の舞台を50年代に設定したのは、なにも懐かしいロウ・テク軍隊を登場させるためだけではないだろう。背後にマッカーシズムの爪痕を残し、未来にはキューバ危機とベトナム戦争が控えていて、しかも多くのアメリカ人が今にも空から何かが落ちてくるのではないかと気にしていた時代である。空から降ってくる一切の物は悪しき物であった。それを良き物として描くことによって、この映画は伝統的なアメリカ的ヒロイズムを現代的な趣旨に置き換える。そこに現われるのは不気味なタイツの下に隠された無比の筋肉ではなく、鋼鉄の硬さを持った無私の正義と非暴力である。おそらくは今だからこそ望まれる理想主義であり、この姿勢だけでもこの映画は評価に値する。単に絵が美しいだけではない。映画が語ろうとしているものも美しいのだ。
アイアン・ジャイアント スペシャル・エディション [DVD]





Mr.インクレディブル(2004)
The Incredibles
かつてヒーローの黄金時代が存在したが、民衆がヒーローを罵り始めたので、政府はヒーローの保護プログラムを作成し、ヒーローたちは正体を隠して一般市民に紛れ込み、それから15年が経過する。Mr.インクレディブルはイラスティガールと結婚して三児をもうけ、Mr.インクレディブルは保険会社に勤めて悲しみとともに日を送り、イラスティガールは化粧っ気をすっかり落として主婦業に励む。そうしているとMr.インクレディブルのところへ謎の組織からの連絡があり、ヒーロー業復活ということで毎日は再び活力によって満たされるものの、実はこれが悪の帝王シンドロームの陰謀で、Mr.インクレディブルは危機に陥り、パパをトラブルから救うためにママと子供たちが立ち上がる。
プロットラインは フィリップ・モラの『キャプテン・ザ・ヒーロー』 によく似ている( シャマランの『アンブレイカブル』 と比べることもできるだろう)。 監督は 『アイアン・ジャイアント』 のブラッド・バード。『アイアン・ジャイアント』が50年代のSF映画に対する憧憬に捧げられていたとすれば、こちらは60年代のスパイ映画趣味が全開という感じで、ピクサー作品として見た場合、あきらかにジョン・ラセターとはテイストが異なっているが、方向性はきわめて明瞭で迷いがない。つまり、悪役シンドロームが繰り出すSFメカとか、秘密基地などがあんまり素晴らしいので、涙なしには見られないのである。演出はスピード感があり、コストパフォーマンスに優れているので2時間を長く感じさせない。パパは情けないし、ママは怖い。CGによる人間の造形、動作の表現はさすがにピクサーという感じで、きわめてよく考慮されている。手間のかかった立派な作品である。
Mr.インクレディブル [DVD]





レミーのおいしいレストラン(2007)
Ratatouille
天から料理の才能を与えられたネズミのレミーはすぐれた味覚と臭覚を持ち、前足を清潔に保つために直立歩行を選択している。そして間もなくパリのレストランにもぐり込み、無能な見習い料理人を操作して自分の才能を発揮する。ネズミが帽子のなかに隠れて、小さな前足で料理人の髪を掴み、一生懸命操作する様子はまるっきり巨大メカもののテイストであり、やはり 『アイアン・ジャイアント』、 『Mr.インクレディブル』 とつなげてきたブラッド・バードの作品なのである。ややもすれば見過ごしがちなものをいとおしみ、いとおしむ気持ちから新しいなにかを生み出そうとする精神を真摯に扱っており、よく考慮された脚本が好ましい。舞台になっているパリは現代のようでもあり60年代のようでもあり、ちょっと古めかしい車が心地よくデフォルメされて走り回り、町並みの情景は美しく、映像は自信に満ちて心地よい。ネズミのレミーはほぼ完全にいわゆるネズミの外見をしていて、それが厨房を駆け巡って料理をする様子がなんとも愛らしく、きわめてよく訓練されたネズミの一族(しかも同じ個体は二つといない、ように見える)の恐ろしいまでの要領のよさがまた楽しい。
レミーのおいしいレストラン [DVD]





ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル(2011)
Mission: Impossible - Ghost Protocol
まだ公開されていない。