2011年10月31日月曜日

ぞんびえいが #3 派生したもの

死霊のしたたり(1985)
Re-Animator
監督:スチュアート・ゴードン
ひどい邦題だが、原作はH・P・ラブクラフトの「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」である。巻頭、モダンなビルが映し出され、そこへ「ミスカトニック大学医学部」という字幕が入ると、こっちはもうそれで満足し、後はもう好きにやってくれという気持ちになった。内容はコメディ仕立て、視覚的にはやりたい放題、品位は乏しく原作者が見たら顔をしかめること請け合いだが、それでもラブクラフトへの愛に満ちていたと思うのはわたしだけだろうか。おそらくこれが数あるエンパイア映画の中でも最高傑作であることは間違いないし、ジェフリー・コムズ、デヴィッド・ゲイルという二人の怪優を発掘したことでも無視できない作品である。
死霊のしたたり スペシャル・エディション [DVD]






ナイト・オブ・ザ・コメット(1984)
Night of The Comet
監督・脚本:トム・エバーハード
彗星の夜に、彗星の光をたっぷりと浴びた人間はことごとく粉になってしまうのである。そして中途半端に浴びると乾燥してゾンビ状態になり、どうやら凶暴化するのである。そしてたまたま難儀をまぬかれたティーンエージャーの姉妹は頭の軽さに少々難があったものの、それでも武器を手にしてゾンビと化した連中と戦い、ゾンビにかどわかされた子供たちをゾンビどもから助け出し、最後にはボーイフレンドも手に入れて、文明存続のために生きるのである。
トム・エバーハードの演出はセンスがあってリズムがいい。緊張はほどよくはずし、ユーモアも折り込み、ちょっと明るく青春もしてみる「文明の終末」映画なのである。こういうのはちょっと珍しい。傑作というつもりはないけれど、嬉しい驚きだったのである。 
ナイト・オブ・ザ・コメット [VHS] 





スペース・バンパイア(1985)
Lifeforce 
監督:トビー・フーパー
原作はコリン・ウィルソンの『宇宙ヴァンパイアー』。なんでトビー・フーパーがこんな映画を、という驚きがまずあった。クレジットを見ると監督がトビー・フーパー、脚本がダン・オバノン、特撮がジョン・ダイクストラと、ハリウッドで冷遇されている連中が集まっていて、よくわからないけれど、そうか、そうなのか、という気持ちにもなるが、それがどういう気持ちなのかは自分でもよくわからない。
5分ごとに違う映画を見ているようだという批評があったけど、そのとおりだと思う。SFもしたいしホラーもしたい、ついでにちょっとポルノもしたいという願望を片端から盛り込んでいって、それをヘンリー・マンシーニのけばけばしい音楽で強引に一本の映画にまとめ上げるという荒業をやってのけているのだ。必然的にまず視覚の方が先に来ていて、ほとんどの台詞はその辻褄あわせのために存在している。悪く言えば映画の体をなしていないことになるのだが、その代わりにここではこんな場面が、その次ではこんな場面が、おお、さらにはこんな場面が、ということで見ていて飽きないし、クライマックス、ゾンビがあふれるロンドン市内の阿鼻叫喚はかなりの出来栄えである。実はけっこう好きな映画で、トビー・フーパーで三本あげろと言われたら、わたしはこれと『悪魔のいけにえ2』と『スペース・インベーダー』を上げるであろう(かなり異論はあると思うが)。 
スペース・バンパイア [DVD]





クリープス(1986)
Night of the Creeps
監督・脚本:フレッド・デッカー
ゲテモノ映画好きには応えられないような作りのごった煮侵略SF青春映画。冒頭からいきなり「エイリアンの宇宙船」が出現するしゾンビはうろうろするし、寄生生物はけっこう不気味だし、青春している若者たちはとにかく元気でアホウだけど、まるっきりのアホウというわけではないので、状況にはちゃんと対処する。やりたい放題という感じではあるが、いちおうバランスは取れているし、ホラー系コメディとしての水準もきちんとクリアできている(ただ、登場人物の名前がクローネンバーグだったりランディスだったりキャメロンだったりライミだったりというあたりは少々野暮ったい)。ごちゃごちゃしている割には妙に腰が座っていて、そこにこだわりを見せるのがフレッド・デッカーの作風のようで、そのこだわりが災いしてけっこう不遇だとも聞いている。
クリープス [VHS]





アンデッド(2003)
Undead
監督:スピエリッグ兄弟
オーストラリアの田舎町バークレーに隕石が降り注ぎ、それにあたった人間はゾンビとなってほかの人間に襲いかかって脳味噌を食べるので、ミスコンテストの女王、銃器店の変人、パイロット、妊婦、警官などが戦う。低予算映画である。で、戦っていると後半では話に謎のエイリアンが介入し、街の上空では満月を背景にファンタスティックな光景が展開し、軽飛行機は実に凝ったプロセスを経て墜落し、軍隊が出動し、攻撃ヘリが実にそれらしく登場し、これでも低予算映画かい? といった感じの挑戦的な映像に発展していくのである。プロットがどうこう、とか、登場人物のコストパフォーマンスが、とか、あと15分短ければ、とか、マイナス要素がないわけではないが、とにかく根性たっぷりの映像には恐れ入ったのである。
アンデッド [DVD]





スリザー(2006)
Slither
監督・脚本:ジェームズ・ガン
鹿狩りのシーズンを間近に控えた山間の小さな町のはずれに隕石が落下し、その隕石を見つけた男が奇怪な生物を発見して近づいていくと、生物から針のようなものが飛び出して男はみぞおちを貫かれる。すると人格が一変して、つまり、それまでは粗暴な夫だったのが妻をいたわる夫になり、それでもエイリアンだからすることはするので家の地下に怪しい巣を作り上げ、近所の人妻をかどわかして怪しい状態に仕立て上げ、そうしたことが警察にばれると愛する妻に何か言い訳をしなければならない、と考えるものの、そのときにはすでに怪物化しているので警官に追われて森に逃げ込み、森から現われて牧場を襲い、警官隊に取り囲まれてまた森に逃げる。警官隊は森のなかの小屋へ踏み込み、そこで行方不明の人妻を発見するが、仕込が終わったあとなので、すぐに阿鼻叫喚の騒ぎになり、町の人間はことごとくがゾンビ状態になるものの、意識が怪物化した男と直結しているせいで、男の妻を見かけると、まず言い訳をしなければならないと考えるのである。
『ドーン・オブ・ザ・デッド』の脚本を担当したジェームズ・ガンの監督一作目。シチュエーションはフレッド・デッカーの『クリープス』に少し似ているが、書き込みの細かさで二歩ばかり上を行っている。舞台になるのはわびしい町で、ひともどこかわびしくて、だから目の前で宇宙からの侵略が進行していても、そして対立関係が人類対エイリアンとして規定されていても、その対立関係自体が過去を背負った男女の妙に後ろめたい三角関係に還元されていく。そしてゾンビが言い訳をするだけではなく、ゾンビに追われて逃げるほうも、家のトイレがすぐに詰まる理由についてなぜか言い訳を始めている。食事中のところをひとに見られたゾンビが「何見てるんだよ」と罵る映画はおそらくこれが初めてであろう(そこから先の台詞もすごいが)。ダイアログとキャラクターの造形がよく出来ている。怪物もあられもないほどの自己主張で登場し、これもけっこう気味が悪い。
スリザー プレミアム・エディション [DVD]





インベージョン(2007)
The Invasion
監督:オリヴァー・ヒルシュビーゲル
『ヒトラー 最期の12日間』 のオリヴァー・ヒルシュビーゲルによるジャック・フィニィ『盗まれた町』の映画化。雰囲気は ドン・シーゲル版よりも フィリップ・カウフマン版に近い。 冒頭でスペースシャトルが墜落して宇宙からもたらされた謎の生命体が広い地域に散乱し、それに触れた人間は「病気」になり、病気の人間の体液で感染が広がっていく。純然たるバイオハザードになっていて、繭は登場しない。本体が損なわれることもないので、回復することもできるのである。人間が別物になった恐怖というよりも、別物になったことで全世界に平和が訪れ、回復するとまた戦争が、というシニカルな視点のほうに重心が移り、舞台はワシントンDCになって、アクションは派手になり、きわめてB級的なバランスのよさでうまい具合にまとまっている。感染した人間が隔離されているのに感染した人間が世界政治を動かしていたのか、とか、細かいところはおそらく突っ込んではいけないのだと思う。ニコール・キッドマン独演会、という感じの映画でもあるが、それはそれで悪くない。ダニエル・クレイグの押さえた雰囲気もいい感じ。ニコール・キッドマン扮する精神科医の患者の役でヴェロニカ・カートライトが顔を出していた。
インベージョン 特別版 [DVD]





クレイジーズ(2010)
The Crazies
監督:ブレック・アイズナー
アイオワ州の田園地帯にある人口1000人ほどの小さな町オグデンマーシュで住民の一人が銃を持って現われて異常な行動をするので保安官に射殺され、その夜には別の住民が妻子を家ごと焼き殺して逮捕され、近くの沼沢地帯で墜落した飛行機が見つかると保安官は一連の事件と水の汚染との関係に気づいて水道をとめるが、間もなく軍隊が現われて住民の強制的な移送にとりかかり、そこへ武装した住民が現われて軍隊と交戦を始めると軍隊は慌てふためいて撤収し、取り残された非感染者は凶暴化した感染者とやたらと発砲する軍隊におびえながら荒廃した町から脱出する。1973年の『細菌兵器に襲われた町』のリメイクだが、状況が制御できなくなってその結果、というオリジナルのプロセスは脱落し、わけもわからずに脱出する住民の話に変えられている。やや引き気味のカメラワークは 『ドーン・オブ・ザ・デッド』をまねているのかもしれないが、使い方がへたくそなのでかえってわかりにくい。保安官一行の脱出行でも、それに先立つ一連の状況でもうざったいサスペンスシーンが同じパターンで繰り返され(保安官が隙を見せて危機に陥る、保安官助手が脇から現われてそこを助ける)、その想像力の乏しさと退屈さに気がつかない自己満足ぶりはこの監督の『サハラ』を思い出す。駄作であろう。 
クレイジーズ [DVD]

Tetsuya Sato