2011年10月15日土曜日

アイン・ランド『肩をすくめるアトラス』(1957)

『水源』が上下二段組、1000ページ超なら、こちらは上下二段組、1200ページ超。世界の大半の国々が人民国家を選択し、アメリカ合衆国もまた公共の福祉を唱える無能な盗っ人によって支配されている時代(ディストピア小説なのである)、有能な企業家は国家の名をかたる「たかり屋」どもの搾取の対象となり、怒れる実業の騎士たちは自分の会社も資産も放棄して行方をくらまし、同様に優秀な科学者や才能ある芸術家なども姿を消し、「たかり屋」どものとどまることを知らない貪欲によって経済が衰退の道を一直線にたどる一方、行方をくらました優秀な頭脳はロッキー山脈の隠れ谷に合理主義のアトランティスを築き上げ、そこには「たかり屋」は一人も存在しないので、対価なしに何かがおこなわれるということもまたないのである。で、もちろんこの国家に反逆するビジネスマンたちが正義の味方で、いずれもみな賢くて有能で、一方、政府にたむろする「たかり屋」たちは無条件にバカでマヌケで嘘つきぞろい、ということになっていて、その徹底的な決めつけぶりと狭量さがおそらく「思想小説」たるゆえんであろう、とは思うものの、わたしは小説に共感も教訓も思想も求めていないので、だから、ただただ造形のまずさにうんざりする(60ページ以上続く演説は途中で読むのをやめたからね)。


肩をすくめるアトラス

Tetsuya Sato